逃げた先には。01


――AM11:00

ゲーム開始から2時間が経過。
俺は相方が見つかった旨の通信を入れた後、ディーロイ副会長の手の内を情報発信した。

「――こんな感じだ。術科だから手の内はあれだけとは限らないが、性格につけいる隙がある。あの人は自分の作った魔法の効果にばかり目が行っているので駆け引きが苦手みたいだ。捕まりそうになったら口八丁で何とかする方向がいいかもしれない」

通信機を使う俺をフレディが不思議そうに見ていたのでリールに作ってもらった通信機だと教えると、フレディはほう、と息を漏らして俺に向き直った。

「なるほど、この類のゲームでは情報の価値は高いからな。……随分と周到に準備してきたんだな。きみも何かこのゲームで勝ちたい理由でもあるのか?」

特に嘘をつく必要性もないので、俺は軽く首を振った。

「……いや?ないな。願い事も特にないし。楽しそうなイベントだから全力で楽しむのがいいかなって。賞品については……勝ったら考える。フレディは?」

フレディはふいっ、と目をそらして答える。

「……ああ、僕は勝って理事長に願うことがある。だから取り巻きのあいつらは邪魔で仕方がなかった。……手を抜いてくれるなよ、ノエ」

そう言って唇を噛み締めた。
なにがなんでも叶えたい望みがあるらしいと察することができた。

「ああ、勿論」

少しだけ落ち着いたのもつかの間、次の危機はやってくる。ある程度リタイアした人が増えたために遭遇しやすくなっているのかもしれない。




「……何か来る」

フレディが険しい表情で呟いた。
俺も頷く。

結構なスピードで魔力の塊が接近してくるのが分かる。フレディが左腕につけたブレスレットが淡く光を発した。

「……おかしいな……」

その魔力の動きに違和感を覚えて俺が眉を寄せると、フレディも同じように感じていたようで警戒態勢を強めていた。

……魔力の接近スピードが“一定すぎる”のである。

ここは整備された道などない森の中。走り続けるには数歩走るごとに目の前に立ちふさがる木を避けつつ走らなければならない。
加えて、雨後のためこの足場である。ぬかるみに足を取られかけることも少なくない。

そんな状況で、近付いてくる魔力の塊はまるで障害物など存在しないかのようにブレずに真っ直ぐこちらに向かってくるのである。

……ん?『障害物など存在しないかのように』?

……あれか!

「まずい、フレディ。これは今の手札ではあまり相手にしたくないやつだ。逃げよう、全速力だ」

「……、分かった。後で説明してくれよ」

フレディは一瞬訝しげに俺を見たものの、迷いはその一瞬だけ。すぐに頷いた。

そして俺達は走る。
学生寮付近の森から深部へと。


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