02


……と、逃げ始めたはいいものの。正直に言うと逃げ切れるかは微妙なところだ。

魔力の塊の正体は技科の鬼が飛ばしたあの飛行物体だろう。上空から狙撃するタイプのアレだ。

『障害物がないような移動速度』なのは当然。空中を移動しているから。
魔力の塊の気配は消せないこと、ブレスレットの機能で接近を察知されてしまうことなどから飛行速度に重きを置いて作られているのだろう。
迷彩魔法を纏っているようで姿は見えないが、加速魔法で逃げてもトントンなレベルのスピードで追ってくるのがわかる。

「……これ、撒けるか?」
フレディが不安そうに言ったが、どうにか逃げるしかない。俺は首を振って答える。

「アレ、多分技科が作った上空から狙撃するタイプの機械だ。迎え撃つことは向こうの射程に入ることと同じなんだよな……」

フレディは俺の答えに小さく舌打ちして言った。

「……チッ。射程に入らずに追い払うか使用不能にしなきゃならない、と。それが無理なら逃げるしかないってことか」

「そういうこと。見つかる前なら隠れるって選択もアリだったんだけど、向こうさん完全に俺達ロックオンしてるもん。今更無理だ」

……とはいえ、なにか策を講じないと撒くことも難しい。どうしたものか。

有力な策を思いつけないまま逃げ続ける。出口の見えない逃走劇は意外な形で終わりを迎えた。

「……引き返していく?」

フレディが汗を拭いながら立ち止まり、訳が分からないといった表情で呟いた。
……俺も訳が分からない。

加速魔法を使って逃げる俺達をそれまできっちり追跡してきていた飛行物体が、突然に動きを止めたかと思うと引き返していくのだ。

「……行動範囲に制限がある、とか?」

ここまで口にして、はたと俺は気付いた。
今いる場所は?

気付けば俺達は、学園敷地内の北端に近い場所、――すなわち森の最深部へと入り込んでいたのだ。

それまで逃げることに夢中で意識していなかったが、立ち止まってみると……ここの空気はあまり長居したいものではない。
本能が警告を発しているのがわかった。危険な魔物の生息区域かもしれない。

「……こんな所まで来てしまってたのか。ここは気分が良くないな、魔物と遭遇しないうちに戻った方がいい」

フレディも俺と同じように感じたのか、そんなことを言った。こころなしか顔色も良くない。

俺は頷いて応じる。
「ああ、逃げるのに夢中で嫌なところに入り込んだみたいだな。……早く、離れよう」

俺達は頷き合って、足早に元の区域へと戻り始めた。

背中を嫌な汗が伝うのが分かった。


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