謎の主従関係。01
「危ないところを助けてくれたのは感謝する……ありがとう」
俺が遠慮がちに口にした感謝の言葉を聞き、男は事も無げに手を振って制した。
「あー、そのあたりは良いんだよ、お互い様。俺くらいの高位の魔物になると受けた恩は返さないと沽券に関わるからな。恩返しってことで、貸し借りはチャラにしようや、ご主人」
出た、またその謎の単語。
俺はついに我慢が効かなくなって男に問うた。
「そう、それだ。なんだその、“ご主人”って?俺はお前みたいなきらびやかな従者を持った覚えはないし、恩返しと言うけど助けた覚えも……」
その言葉に男は少しむっとした表情を作ると、ずいっ、と俺に顔を近づけて自分の瞳を指さした。
「んだよ、忘れたのか?この目を見ても思い出さねえか?」
真紅とスカイブルーのオッドアイ。
………………
…………
……!!!
「お、お前もしかして、あの時の猫又か?!」
あの、俺から魔力かっぱらって離脱した。
驚いて思わず相手を指さしてしまう。
男はいたずら坊主のようににかっと笑って頷いた。
「俺にとっちゃ一大事だったってぇのに、忘れられたかと思ったぜ」
つまりこの男もとい猫又は、俺の命の危機にわざわざ恩返しにやって来てくれたというわけか。律儀な魔物もいたもんだ。いいことはしとくものだな。
……ん?ちょっと待てよ?
おかしな状況に思い至った俺は、疑問をそのまま猫又にぶつける。
「……ちょっと待てよ、命を助けたお礼に恩返しに来てくれたってんなら、今俺の命を助けてくれたので貸し借りナシ。プラマイゼロだろ?なら“ご主人”なんて呼ばれる理由がないと思うんだが」
この疑問を聞くや、猫又は我が意を得たり、といった様子でにやりと不敵に笑った。
「……さすが!話が早いな、ご主人!俺はその話をしに来たんだ」
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