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日曜の夕方、一人での外出から帰宅すると、使った形跡があるお客様用のティーカップを見かけた。


誰かお客さんが来たのだろうかと思いながら、リビングでテレビを見ている母に帰宅時の挨拶をする。




「名前、あんなに素敵な友達がいるなら早く教えなさいよ。」


「‥‥?素敵な友達?」


嬉しそうな母の向かい側のソファーに腰を下ろし、眉根を寄せながら返す。




「さっきね、あんたのノートを届けに来てくれたの。」


母の言葉とともに視線を落とすと、テーブル上には金曜日に貸した私のノートが置いてあった。




「その届けてくれた子ってまさか‥‥。」


『私のノートを貸したのは彼奴しかいない』と察知した私は、冷や汗が流れるのを感じながら小声で尋ねた。




「侑くん、さっきまでウチにいたのよ。」


母の言葉に、私は『やっぱり宮くんだったか』とがっくり肩を落とす。




「なんで家に入れたの?!」


あんな奴を易々と家に入れたことに、目を見開いて責め立てる。


腹立たしいと同時に、友人にすら教えていない私の住所を、何故宮くんが私の住所を知っているのか不思議でならなかった。




「折角届けてくれたのよ?それに名前の友達が遊びに来ることなんて滅多にないから、お母さん嬉しくって。侑くんってイケメンだし、背高いし、面白いし、ほんと良い子ね。」


「‥‥はあ。」




浮き浮きしながら言う母に、私は盛大にため息をつく。


そして『侑くん、ここにいる時ずーっと名前の話をしていたのよ』と言う母に、その様子が安易に想像できてしまった。




「‥‥まさかそいつ、私の部屋とか入ったりしてないよね?」


彼奴なら仕兼ねないとギョッとした私は、ジト目で母に尋ねた。




「‥‥多分入ってないと思うけど‥‥あれ、どうだったかしら。」


「‥‥嘘でしょ。」


一瞬フリーズし、必死に記憶を呼び起こす母に、私は本日二回目のため息をついた。









「昨日は会えなくて残念やったわ〜。名前ちゃんだけでなく、名前ちゃんのお母さんもべっぴんさんなんやね。」


翌日、私のクラスへやって来た宮くんが、昨日の出来事を話し始めた。




「なんで君は、私の住所知ってるの?」


「ん?この前名前ちゃんの後をつけて、知ったことやけど?」


一番気になっていた事を単刀直入に聞くと、宮くんは爽やかに恐ろしい言葉を発した。




「世間ではそういうのを『ストーカー』って呼ばれてるの知ってる?」


「いややわ名前ちゃん。おぞましい事ばかり遣らかす連中と一緒にせんといてや。」


私の指摘に、眉を下げながら宮くんが否定する。




「いや一緒だろ。それより、私の部屋には入ってないよね?」


「入ってへんけど‥‥なんや名前ちゃん、俺に部屋入って欲しかったん?いややわもう、変に遠慮したやん。ほな次からはお言葉に甘えて、名前ちゃんの部屋入るわ。」


「いやいや入らないで?てか一生ウチに来ないで?」


勘違いも甚だし過ぎる宮くんを、慌てて全力で阻止する。




「ほんま素直やないね。部屋には入ってへんけど、アルバムは見してもらったで。」


「これ‥‥えっ!?」


私に提示した宮くんのスマホの画面には、私の出生後から最近までの写真が映っていた。


アルバムの写真を写メったのだろう、見覚えのある数々の写真が、宮くんの指によってスライドされていく。




「昔から名前ちゃん可愛すぎひんか?あかん、これとかほんま天使やん。ロリコンの気持ち分かる気ぃするわ〜。こんなんいたら誘拐してまう。」


「いや怖い怖い怖い。」


こいつが言うと冗談に全く聞こえない私は、冷静にツッコミを入れる。




「俺と名前ちゃんの子どもは、ものごっつ可愛いやろなあ。」


「恐ろしい妄想すんのやめてくんない?」


スマホの画面を嬉しそうに見つめながら恐ろしい言葉を発する宮くんによって、一気に顔面蒼白になる。




「冗談やと思てんの、名前ちゃんだけやで?
昨日『名前ちゃんとこの先ずっと一緒にいたいと思ってます』って言ったら、『侑くんなら大歓迎やから好きなようにしていいからね』って名前ちゃんのお母さんも言うてたしな。」


「‥‥何それ怖い話?」


宮くんの嘘であってほしいと思いつつも、宮くんを気に入っている母なら言い兼ねないだろうと落胆する。




「めっちゃ幸せな話。せやから、俺が18歳になるまでもうちょい待ってな。」


「‥‥他人の誕生日が来ないでほしいってこんなに思ったのは初めてだわ。」


ニコッと顔を綻ばせながら言う宮くんに、真顔で心情を吐露する。




「フッフ、堪忍しぃや名前ちゃん。俺のおかんがよく言っとるけど、女は愛される方が幸せなんやで?」


「それならどうぞ、他の女性を愛してやってください。」


宮くんに負けじと私なりに爽やかに笑い、ズバッと拒否したのであった。