天童家の息子から〈1〉
「ほら起きて!!朝!朝だよ!!」
今日も母さんの元気な声で起こされる。
母さんは朝に強いのか、いつも朝から元気だ。
母さんに促され、朝食を食べる為にのろのろと部屋から出る。
朝食を食べていると、今度は『おはよーん!!』とハイテンションな父さんがやってきた。
父さんは台所に立つ母さんの後ろに立ち、こめかみにキスをした。
「こらっ、やめなさい‥‥!」
「ん〜?子どもの前だとほんとつれないヨネ名前は〜!」
睨む母さんに『まあそこも可愛いんだけど!』と父さんは言いながら朝食を食べる為に椅子に座った。
確かに毎日同じことをされているにも関わらずいつも恥ずかしがる母さんは、俺から見ても可愛いと思うけど。
俺と父さんはいつも一緒に家を出て最寄駅まで向かう。
そんな俺と父さんを、母さんが玄関まで見送るのが日課だ。
「んじゃ、いってくるよ〜!」
「待って。ネクタイが‥‥。」
出て行く父さんを呼び止め、曲がったネクタイを母さんがきちんと直す。
父さんが毎日わざとネクタイを曲げて玄関に出るのは、母さんと接触できる機会を増やす為の魂胆なんだろう。
俺にはすぐ分かったけど、変に鈍い母さんは気づいているのだろうか?
「ん〜!今日も名前は可愛いネ!」
身長差のせいで上目遣いになりながらも一生懸命にネクタイを直す母さんを、父さんが堪能する。
「‥‥はいはい。」
「あれあれェ〜?顔真っ赤だよ?」
素っ気ない言葉を返しながらも耳まで真っ赤に染めて恥ずかしがる母さんを、父さんが楽しそうに顔を覗き込んだ。
とまあ、今までのやり取りから分かるように父さんは母さんにべた惚れで、隙あらば俺の前でも平気で口説いている。
父さんが母さんを愛しているのは良いことだけど、俺の居ない所でやってほしい。
毎日この光景を見ている俺としては、温かい目で見守ることは出来なかった。
「先に行ってるよ〜。」
痺れを切らして先に玄関を出たが、父さんをよそに『気をつけてね』と笑顔で俺を追いかけてきてくれた母さんに免じて、今日は許してやるけどサ。