岩泉家の娘から




今日友達と、結婚するならどんな人と結婚するかの話題になった。

そこで私は『お父さんみたいな人と結婚したい』と言ったら、全員に『私なら自分の父親みたいな人とは嫌だ』と怪訝そうに言われた。


私はお父さんが大好きだし、お母さんのことも大好きだ。
お父さんとお母さんも私のことを愛していると感じるし、二人の子どもである事を幸せに思っている。
将来は二人のような家庭を持ちたいと思っていたのに、私はそんなに変なことを言っただろうか?




今日お父さんは残業で遅くなるらしく、先にお母さんと二人で夕食を食べた。


「今日、どんな人と結婚したい?って話題になってさ、『お父さんみたいな人と結婚したい』って友達に言ったら『私なら自分の父親みたいな人とは嫌だ』って言われた。」

「あははっ、そうかぁ。年頃の女の子は父親を遠ざけたりする時期があるらしいからね。
でもその友達も、余程酷い父親じゃない限り、いつかは打ち解ける日が来ると思うな。」

「ふ〜ん。‥‥お母さんは私の考えどう思う?」

「そりゃあ、お父さんみたいな男の人と貴方が結婚してくれたら凄い安心する。」


そう言いながらお母さんは嬉しそうに笑った。
本当にお父さんの事が好きなんだなあ。
お母さんは昔から私の将来の理想だ。





夕食を食べてお風呂に入って、ソファーでゴロゴロしていたはずが、いつの間にか眠ってしまっていた。

起きて部屋に行くのは面倒だし、ソファーの上でもう一度寝てしまおうかとうつらうつらしていると、お父さんとお母さんの声が聞こえてきた。
どうやらお父さんは遅めの夕飯を食べているようだ。


「あいつまたソファーで寝てんのか。」

「小さい頃はよく、ベッドまでお姫様抱っこで運んであげてたよね。」

「だな。今したら流石に嫌がられんだろ。」


嫌がりはしないけど。
お母さんがソファーで眠ると、いつもしてあげるのにね。


「そうかなあ?あ、あの子ったら今日ね、『お父さんみたいな人と結婚したい』って言ったのよ。」


早速お父さんに言っちゃってるし、まあ別にいいけど。
確実に目は覚めたが、起きるタイミングを失った私は、このまま寝たふりをすることにした。


「へぇ‥‥そうか。でも小さい頃から言ってたよな。
普通、娘ってのは『大きくなったらお父さんと結婚する』って言うらしいのによ。」

「そうそう。『お父さんとは結婚したくないの?』って聞いたら『だってお父さんはお母さんの物だから、取っちゃダメでしょ?』って言ってたもんね。」

「でも名前も昔言ってたじゃねェか。『結婚するなら私のお父さんみたいな人がいい』って。」

「えっ!高校の時、友達には言ってた記憶あるけど、一には言ってないよ私!」

「その友達に言ってるのを偶々聞いたんだよ。」

「え〜!そうだったんだ‥‥。それ聞いて嫌じゃなかった?」


お母さんの心配そうな声が聞こえる。
昔のお母さんも私みたいに、誰かに否定されたりして不安だったのかな。


「なんで嫌がるんだ?」

「だってそれ聞いて『ファザコンかよ』って笑う人もいたし、嫌なのかなって思って。」


両親の立場からすれば『お父さんみたいな人と結婚したい』は嬉しいことなんだろうけど、確かに周りからすればそういう意見もあるんだろうな。


「全然。寧ろそれ聞いたとき、『そんなこと言うぐらい名前は幸せな家庭に育ったんだろうな』って思ったし、思えばそれが名前のことを気になったきっかけだったと思う。」

「え!嘘?!知らなかった〜!」


お父さんとお母さんが付き合ったのは大学生の頃だと聞いたけど、お父さんは高校の頃から好きだったんだ。
今度お父さんに詳しく聞いてみよう。


「まあ、言わなかったしな。
それに親父とお袋がお前を初めて見た時、『ご両親の深い愛情に守られて、真っ直ぐに育ったんだろうな』って言ってたぞ。」

「そうなんだ?!なんか照れますなぁ〜。」

「まあ要するにだ。あいつが『お父さんみたいな人と結婚したい』って言ったのは、名前と俺が幸せなのを見て、俺たちに大事にされてるのが伝わってるからこそ出た言葉なんじゃねーの?」


そうそう。流石お父さん。
幸せな二人を見てきたから、自然と出た言葉なんだよ。


「そうかあ‥‥。うん、そうだね。」

「名前もよ、仲良いお父さんお母さんを見て育ったから高校の時『お父さんみたいな人と〜』って言ったんだろ?」

「はい、仰る通りです。」




「‥‥名前、結婚してくれてありがとな。」

「こちらこそ私を選んでくれて、結婚してくれてありがとう。
あの子もいい人に巡り会えるといいね。」


なんか甘い雰囲気醸し出してきたんですけど。
いつまで寝たフリすればいいんだか。


「できるだろ。今のままのあいつで育ってくれれば。」

「そうだね。でもあの子がお嫁に行ったら寂しいんじゃない?」

「まあな。でも死ぬわけじゃねーし、お前がいるだろ。」

「それもそっか。」


するとさっきまで話していた二人の声は聞こえなくなり、静かになった。
これは多分、キスしてるな?

しょうがないから、もう少し寝たふりしてあげるよ。




将来は、お父さんのような人に寄り添って、お母さんのように生きたい。

そう思えたのは二人の娘に生まれたからだと思う。


娘の私からも言ってあげるよ。
お父さん、お母さんを選んでくれてありがとう。