及川家の息子から
「明日、お父さんと留守番お願いね。」
台所で洗い物をする母さんがカウンター越しに、リビングでテレビを観る僕とお父さんに向かって言った。
お母さんは明日、高校の友達と五年ぶりに会うらしい。
「うん。楽しんで来てね。」
「名前〜早く帰って来てね?」
「分かった分かった。できるだけ早く帰ってくるから。」
泣きそうな顔で言うお父さんを見たお母さんは、呆れたように笑いながら宥める。
「あのさお父さん、『久しぶりに会うんだからゆっくりして来なよ』とか言えないの?」
お母さんに聞こえないような声の大きさで、隣に座るお父さんに言った。
「うっさい、寂しいもんは寂しいの!」
「一日ぐらい我慢しなよ。大体お父さんと二人きりで留守番しなきゃなんないこっちの身にもなってほしいね。」
「お、お前って奴はほんっと可愛くないね!」
ため息をつく僕に、青ざめたお父さんがプルプルと震えながら抗議する。
「誰かさんに似たせいじゃない?
出来ることなら僕も、お父さんみたいに性格悪くなりたくなかったね。」
偶に遊びに来る岩泉のおじさんは、僕のことを『顔も中身も及川ソックリだな』と笑う。
「このクソガキ‥‥!!あーもう名前!」
正論を述べた僕に耐え兼ねたお父さんが、台所に立つお母さんの名を叫んだ。
「何〜?」
「お願い!名前似の女の子を産んで!!」
「え!?なんでまた急に?」
耳だけこっちに傾けていたお母さんが、ギョッとした様子で僕たちの方を見た。
「名前似の可愛い女の子に『パパかっこいい、パパ大好き』って言われたい!」
お父さんや僕に似ているならちょっと勘弁だけど、お母さんに似ているなら僕も欲しいかも。
興奮気味に要望を言ったお父さんに『どうやって子どもはできるの?』って聞いたら『名前〜助けて〜!!』とお母さんの元へ逃げ出した。
すぐそうやってお父さんは、お母さんを頼るんだから。
僕は顔も中身もお父さんに似ていると周りからも言われるし、自分でもそう思う。
でもね、精神年齢は僕の方がずっと大人だよ。
お父さん、お願いだからお母さんに迷惑かけるのはやめてよね。
(補足)この息子くんは小学校低学年ぐらいかな。子供の作り方って大体何歳ぐらいで知るのだろう。