宮(侑)家の娘から




仕事や学校のない土日、お母さんはお父さんと私よりも朝起きるのが遅い。
お父さんが『名前は疲れてるんやから寝かしとき』と言うから、いつもは何もせず放置している。


けど今日は母の日だ。
起きたお母さんにプレゼントをすぐ渡せるよう準備して、お母さんが起きるのを今か今かと待っている。


花が好きなお母さんには、母の日にも誕生日にも毎年手紙と花を贈っていて、今回もそれを用意したのだが、たまにはいつもと違う物を贈りたい。


「お母さんの好きな物って花以外にないの?」


この段階でお父さんに聞いても今日の母の日のプレゼントに取り上げるのは無理だと思うが、もしかしたら誕生日や来年の母の日の参考になるかもしれない。


「ん〜そうやなあ。何やろなあ。」


尋ねられたお父さんが、ぼんやりした様子で考える。


「あ、あったわ。」

「なになに?」


パッと浮かんだ様子で目を輝かせたお父さんに、何なのか詰め寄る。


「俺や。」

「は?」


自信満々に答えたお父さんに、唖然とした。
一体何を言っているんだ。


「名前は俺が好きやから、俺あげたらごっつ喜ぶわ。」


それはつまり、お父さんがプレゼントということか?


「‥‥は、何それ。めっちゃ面白そうじゃん!ちょっと待ってて!」


想像したらちょっと気持ち悪いけど、またそれが面白そう。
それにお父さんをプレゼントするのなら、今日の母の日にも実行できると考えた私は、ある物を取りに自分の部屋へと向かった。





「フツー『私をプレゼントっ!』ってする時のリボンって、胴とか首とかに巻くんちゃうの?なんで両手首括り付けんねん、逮捕されんのか。」


お父さんの両手首を、自分の部屋から持ってきたピンクのリボンで拘束した私に、納得いかないような顔で言う。
確かに逮捕された被疑者のようだ。
ピンクのリボンで随分ファンシーだけど。


「お父さんの首にピンクのリボンとか考えただけでもゾッとする。これが似合ってるよ。」


後でこれ写メって、治おじちゃんに絶対送ろう。

するとリビングの奥から足音が聞こえてきた。


「お母さんだ!ほら隠れて!」


私は慌ててお父さんを、リビング横にある部屋へと押し込んだ。




「おはよ〜。」

「おはよ!
お母さん、いつもありがとう。はいコレ。」


リビングに入ってきた寝惚け眼のお母さんに、感謝の気持ちを伝えながら花と手紙を渡した。


「‥‥!わ〜ありがと〜!」

「後ね、もう一つプレゼントがあるの。」


顔をパッと輝かせて受け取るお母さんに、秘密を打ち明けた。


「ん?他にもあるの?」

「お父さーん!入ってきてー!」


リビング横の部屋に向かってお父さんを呼んだ。


「もう一つのプレゼントはね、お父さんだよ。」

「どや名前、嬉しいやろ?」


自信満々に言う私とお父さんを見て、お母さんが呆然とする。
あれ、もしかして引いたかな?


「ぶっ、あははははっ!
ちょっ‥‥待って、手錠みたいにリボンで拘束されてるし‥‥もうほんと最高‥‥!」


そんな不安も束の間、お母さんは盛大に吹き出して笑った。

お腹を抱えながら笑うお母さんを見て、私とお父さんはハイタッチをした。
お父さんはリボンで拘束されているから両手でだけど。





「侑がプレゼントってことは、侑を好きにしていいってことだよね?」

「ええよ。好きにしていいってこれまた大胆やな〜。どんなことされんのやろ。」


やっとリボンを解かれたお父さんが、手で上半身を覆いながらおちゃらける。


「それなら今日一日、侑をこき使おっかな!」

「じゃあ私の行きたいところに付き合ってもらお〜っと。」

「何でやねん。お前を労る日ちゃうぞ、名前を労る日や。」


お母さんの提案を聞いて調子にのった私の頭を、お父さんが軽くチョップした。




お父さんと私を見て、お母さんはいつも笑ってる。
これからも沢山お母さんを笑わせようね、お父さん。




(補足)宮侑が絶倫な所為で、営みの翌日はいつも寝坊する。だから夫や娘よりも起きるのが遅いし、翌日が早く起きなきゃいけない平日の時にはしたくない嫁さん。