けなげな姿

京に来たばかりの頃、俺達は清河八郎に裏切られ、路頭に暮れていた。寝泊まりと食事は八木さんに世話になってたから困ることはなかったが、生活は貧しいのに変わりないし何より申し訳ない。
また、後ろ楯がいない俺達は不逞浪士と何ら変わりなかった。
見回りしていても京の人々は白目を向けてきて、平助や新八は悔しそうにしていた。

そんな頃の話である。




「…ん?美月ちゃんの姿見かけねぇがどこにいるんだ?」


「…そういや、最近昼間になると姿見えなくなるよな…」


「もしかして、京に来て早々他の野郎に言い寄られてるんじゃねぇのか!?左之!!」


「バーカ、美月は、そんなに尻軽じゃねぇよ」





新八の言葉に軽く笑って返す左之。彼女は優しく、流されやすいところもあるが芯のある賢明な女性だ。
ふらふらと他の男のもとへ行ってしまうような阿呆な女ではない。

しかし、彼女が今何をしているかだなんて見当もつかないのも事実で…彼女が戻ってきたら聞いてみようと思う。疑いなどはないが、念のためだ。

美月が戻って来たのは、日が暮れ始める夕方頃だった。




「…ん、帰って来たか」


「ふふ、只今戻りました」


「どこ行ってたんだよ、こんな時間まで出掛けてるなんて珍しいじゃねぇか。どこ行ってたんだよ」


「…せっかく京に来たので町中を散策してたんです。江戸とはまた違った活気がありますね」




にこやかに笑いながら左之の問いに答え、中へ入る美月。その様子から、嘘を言っているようには見えなかった。
その後、美月は帰って早々に夕食の準備へと向かったのだった。今の自分に出来ることはこのくらいだから、と彼女らしい台詞を残して。

それからもまた、美月はちょくちょく昼間に姿を消した。用事があったとか、八木家の人に頼まれ事をされたとか…色々理由付けては家を空けてきたのだが…どうもそれが頻繁過ぎる。
そして、彼女が何故家を空けていたのか…わかる日がきた。


新八と平助と普段通り見回りをしていたときだ。





「…!?ちょ、左之さんアレ!!」


「ああ?何だよ平助、いきなり大声出しやがって」


「そんなんどうでもいいから!!あそこの茶屋で働いているの、美月じゃねぇ!?」


「何…」





平助が指を指す方へ視線をやれば、いつもの愛らしい笑みを浮かべながら接客をしている美月の姿があった。





「ど、どういうことだよ…ありゃ!?左之、お前なんか美月ちゃんから聞いているか?」


「いや、特に何も聞いちゃねぇが…アイツ、あんなとこで何してんだ」




働いていることくらい見ればわかる。俺達が聞きたいのはそんな当たり前のことではなくて、何故美月が茶屋で働いているのか、だ。
この場を目撃して素通りするわけにもいかず…三人はずんずんと美月がいる茶屋へと向ける。





「悪いが嬢ちゃん、聞きてぇことがあるんだが?」


「はい、どうなされ…!?」




背後から声を掛ければ、みるみるうちに美月の表情から笑顔は消え、驚愕したものへと変わっていく。





「さ、左之さん…平助君に、新八さんまで……」


「これは、一体どういうことだ?俺には聞く権利があるはずだぜ?」


「……は、はい」





眉尻を下げ、情けない表情を浮かべながらも…美月は頷きを見せたのだった。