「…あ……」
今、自分の身に起きている現状に…恐怖で体を震わせた。
「げへへ…こいつァ、いい女じゃねぇか」
「安心しろよ、手荒な真似はしねぇよ。てめーさんが大人しくしててくれたら、な?」
「…っや、やめてください…!」
自分のことを追いかけて来る不気味な男達から必死に逃れようと駆ける美月。…うかつだった。診察し終えた帰りにまさかこんな風に不逞浪士達に絡まれることになるとは。心配して、歳さんが誰か傍に付けると言ってくれたのも迷惑が掛かっては悪いと思い断ったことも…今となっては後悔だ。
「…っきゃ!」
パタパタと急いで逃げていたものだから、足がもつれて転んでしまった。持っていた荷物も手元から離れ、辺りに散らばってしまった。
しかし、今はそれを拾っている場合ではない。何とかしてこの状況から打破しなければならない。そう思い、再び逃げ出そうとしたのだが。
「もう逃がさねぇよ、観念しろよ」
「っ!!」
背後から肩を掴まれ、びくっと体を震わせる美月。恐る恐ると振り向けば、にやにやと気持ちが悪い笑みを浮かべている男達の姿があった。
「やっ、離してください…!」
「ハッ、こんな上玉手放すわけねぇだろ?いいじゃねぇか、俺達に媚売っておけば、お前もこれからの暮らしが楽になるだろうよ」
「俺達はこれからこの国を変えるんだ!そんな俺達に抱かれるんだから名誉だと思え!」
「やめてくださいっ…!嫌!!」
必死に男達の手から逃れようと抵抗した。声を張り上げて、体を引き剥がそうともがいた。しかし…所詮は女の力。男二人に押さえられればどうしようもない。
「ククク、安心しろ。お前は美人だからそれなりに優しく抱いてやる」
「おい、口は塞いでおけよ?大声を出されたら面倒だ」
「んっ…!」
見知らぬ男二人に体を地面へ押さえつけられ、口元を大きな手のひらが覆った。その瞬間、美月の全身に悪寒が走る。
「…ヘヘヘ、お前ほんと綺麗だなぁ…」
「……っ」
恐怖しか浮かんでこない。お願い、触れないで。その欲望の眼差しを此方に向けないで。やめて、お願い。
「お前等っ、何してやがる!」
そのとき、聞き慣れた声が辺りに響いた。
「左之さんっ……!」
声の主の名前を呼ばずにはいられなかった。