頼ってほしい

「私も剣術を学んでみようと思うんです」


「ぶっ…!?」


「…左之さん…!?大丈夫ですか…!お茶を吐き出すだなんて、どこか体の調子でも…」


「っそ、そうじゃねぇよ…!美月の発言に驚いちまっただけだ」


「…え?」





左之の言葉にきょとんとした表情を浮かべる美月。…はて、自分は一体何をそんな…彼を驚かすようなことを言ったのだろうか。






「…で?」


「はい?」


「なんでいきなりそんなこと言い出したんだ?」


「へ?ああ、剣術のことですか?私も京都へ来たからには皆さんのお役に立ちたいと思いまして」


「じゃあ隊士になるってのか!?」


「いえ、さすがにそれは無理だと思うので…せめて皆さんの足手まといにならないように自分の身は自分で守れるようになろうかと思ったんです」


「…ああ、そういうことか。」





成る程、気遣いの美月らしい。俺達に迷惑をかけまいとそんなことを言い出したのだろう。





「それで、さっき総司君に稽古を頼んだんです」


「!総司にだって!?」


「はいっ」






左之の聞き直しに美月は嬉しげに返事を返す。…よりによってなんで総司に頼んだのか。誰よりも稽古に厳しく、彼の稽古を受けた者は死にかけるのがオチだ。







「総司だけはやめとけ」


「え、何でです?総司さん、皆の中で一番強いんでしょう?」


「あいつの稽古は厳しいとかそういう次元じゃねぇ!ただボコボコに痛めつけられるだけなんだよ!そんな目にお前を遭わせるわけにはいかねぇんだろ?」


「…ボコボコ…ふふっ本当に稽古みたいですね」


「んな笑いごとで済む話じゃねぇんだ!とにかく、総司だけはやめとけ!な?」


「…じゃあ、新八さんに頼みます」


「新八も、加減知らねぇから駄目だ」


「じゃあ平助君っ、彼なら大丈夫でしょう?」


「平助は…あー、その…あいつは違う意味で駄目だ。」


「違う意味…?」






…お前の色香にやられるから駄目だ、とは言えない。左之は上手い言葉が見つからず、適当に告げるが、美月は首を傾げるばかり。
他の面子の名前を順々に告げていくが、どれもこれも左之は片っ端から駄目だの一点張り。左之以外の名前は全て言い終わってしまった。





「…じゃあ、一体誰ならいいんですか…」


「っていうか、なんで俺の名前を出さないんだよ?」


「…へ?」


「…っだから、なんで一番に俺の名前を出さねぇんだよ」






…一番に自分を頼って欲しいのに、彼女は何故そうしない。左之はそれが気に入らなかった。しかし、左之の言葉に美月はきょとん、と目を丸めた。






「…だって、左之さんは槍でしょう?槍は…私には少し無理ばかり無理かと…」


「……」





…確かに、彼女が言うとおり自分は槍を専門としている。が、剣術も少しばかり扱える。それこそ美月に教える程度ぐらい容易いものだ。






「…大体、美月が剣術なんてやる必要なんかねぇんだ」


「へ?」


「俺がちゃんと美月を守ってやるんだから、美月がそんな真似する必要なんてねぇだろ?」


「……ふふっ」


「な、何がおかしいんだよ?」


「左之さんが私のこと心配してくれるから…嬉しくって」


「当たり前だろ?惚れた女のこと、心配しねぇ奴が…」


「それでも、嬉しいんです」


「?」