「左之さん達…今夜も島原ですか…」
「ったく、あいつら…夜遊びばかりしやがって…」
「…憂さを晴らしたいんでしょうね…」
屯所の縁側にて、土方の隣に腰掛けながらお茶を啜る美月。土方もまた、美月が淹れたお茶で喉を潤しながら、執務の合間の休憩をしていた。…美男美女が並んでいる姿は、まるで仲の良い夫婦のようだ。
「…お前はいいのかよ」
「?何がです」
「あいつが、島原で酒飲んでることだよ」
「左之さんはお酒好きですから、飲まずにはいられないんでしょうね」
「そうじゃねぇよ…他の女がいるところに行っちまってもいいのかって話だよ」
「…あぁ、そういうことですか」
土方の言葉に、美月は小さく頷いてみせた。
「…左之さんだって、人間ですから…たまには綺麗な女の人に囲まれたくなりますよ。私のような、嫁に行き損ねた女なんかじゃなくて…」
「…何言ってやがる。江戸じゃ美人女先生と評判の女が」
「評判高いのは歳さんですよ。聞きましたよ、また恋文を頂いたそうじゃないですか」
「…くだらねぇことばかり噂しやがって…」
「歳さんは綺麗ですから、どうしても見惚れちゃうんです。女性なら誰もが」
「…誰でも、ねぇ」
こぽこぽ、と音を立てながら、土方の湯呑に茶を注ぐ美月。にっこりと満面の笑みを浮かべながら、また頷いて見せた。
「…だったら、お前はどうなんだ?」
「え…?」
「美月も、見惚れたりすんのか?」
「……たまに…」
土方の問いに、美月は一瞬目を開かせ驚いた様子を見せたが…すぐに言葉を返した。…頬を赤く染めながら。
「…お前なぁ…」
「あっ、けど本当にたまにですよ…!?そんなしょっちゅう眺めたりはしてませんよ?」
「…ほんと、掴めねぇ女だな」
「え、掴め…?」
気がつけば二人の距離はいつの間にやら近づいていて…土方の手が美月の頬へと触れようとしたそのとき。
「おい土方さん、ちょいと近づきすぎなんじゃないのか?」
二人の背後から、聞きなれた声が届いた。
「…あ、れ…?左之さん、今日は帰りが早いんで……」
「ちょっと美月、来い」
「へっ、きゃっ…!ど、どうしたんです左之さん…!」
「おい原田、一つ忠告だ」
美月の腕を強引に引っ張り、土方から離れさせ、この場を後にしようとする原田。そんな彼に、土方が一声掛けた。
「そいつを悲しませたりしたら、俺が奪っちまうからな」
その言葉に、原田は一瞬動きを止めた。が、すぐにまた美月を引き連れて行ってしまったのだった。