「ど、どうしたんです左之さん…?急に…島原からの帰りも普段より早いですし…」
「…美月、お前…土方さんと何話してたんだ?」
「え…?あ、そんな大した話はしてませんよ?」
「その割には随分近づいてたんじゃないのか」
「…それは、そうかもしれないですけど…」
はっきりといた言葉を切りださない美月に、左之の苛立ちも増した。
「何してたんだよ?」
気づかぬうちに声色にも怒気が混ざる。しかし、美月は動じず話を続けた。
「…歳さん、落ち込んでいた私に気を遣ってくれたんですよ」
「…落ち込んでたって、お前なんかあったのか?」
「…あ、別に何か嫌なことがあったとかじゃなくて…その…なんでもないことなんで…」
「なんだよ、土方さんには言えて俺には言えないってか?」
「…えっと…」
どう言えばいいものか、と言葉を選びながら美月は恐る恐るといった様子で話し始めた。
「…左之さんが、新八さんや平助君とよく島原に、足をお運びになられるでしょう?」
「あ…ちょっと待て。俺はいつも言ってると思うが俺が島原に行くのはただ単に酒を楽しく飲みたいがためにだな…」
「ふふっ…そう慌てなくても大丈夫です。左之さんのことはちゃんとわかってるつもりですし、お勤めで溜まった疲れを気持ちよく発散してもらいたいですし」
「…じゃあ一体何だっていうんだよ?」
「…やっぱり、言わなきゃ駄目ですか?」
「そこまで話したのに、話さねぇってのは無しだぜ」
「……ですよね」
左之の即答に美月は苦笑しつつも、気持ちが定まったのか話を続けた。
「ああいう綺麗な女性の方が、左之さんとお似合いなんじゃないかって……」
「は…?」
「…私のような嫁に行き損ねてしまった女なんかよりも…ああいった女性といた方がきっと、幸せに……」
「美月」
それ以上、美月の言葉は告げられることはなく、急に腕を引かれ…気がつけば彼の腕の中に閉じ込められていた。
「…左之さっ…」
「…悪いな、お前を不安にさせちまってたか…」
「いいんですっ、わ、私が勝手に…」
「美月」
「…はい」
美月が慌てて口を開こうとするも、それを遮るように左之は彼女の名前を呼ぶ。…美月が、どんな性格なのかぐらい長年の付き合いだ、よく知っている。…気遣いで、自分のことをほったらかしてばっかで。きっと気遣わせてしまったと彼女の中で後悔していることも。
「俺には、お前だけだ」
「…っ左之さ…っんん…」
そっと、彼女の柔らかい唇に口づける。きっと、謝罪の言葉を告げるであろうその口を黙らせるにはこの方法が一番だ。
「安心しろ、美月は俺がちゃんと嫁に貰ってやる」
「っ!」
「…お前以外の女を、嫁にする気なんかさらさらねぇよ」
「左之、さん…」
一言一言、優しく囁いてやれば…頬を赤く染め、だけどどこか嬉しそうに微笑みを浮かべる美月がいて。
「お前が好きだ…美月」
「…私も、左之さんが好き……」
ようやく、彼女の瞳から不安の色が消えたのだった。