手のひら

ゆらり、と彼女の体が倒れていく様を見て、一瞬まともに呼吸することを忘れてしまった。







「…美月、ほんと限度ってもんを考えずに突っ走っちまうから困ったもんだよなー」


「お医者さんのくせに、こうして診てもらうことになるとはね」


「本当に、ごめんなさい…」





私室で、横になっている美月に、彼女のすぐ傍に控えるように腰を下ろしている平助と総司。彼女の額に乗せている冷えた手拭いを再び濡らし、冷たくして乗せてやると美月は気持ち良さそうに目を細めた。





「松本先生が疲労から来る風邪だってさ。平気なフリして無理ばかりするからこんな目に遭うんだよ」


「ふふ、いつもは私がそう言う側なのに…まさか総司君に言われることになるなんて」


「たまにはいいんじゃねーの?病人の気持ちがわかってよ」


「…もう、平助君まで……けど、ありがとう。今日はちゃんと休んで明日には治すようにするから」


「美月が元気ねぇと俺等まで元気出ねぇからな…早く治してくれよな」


「それじゃ平助、そろそろ行こう」






そう言って、二人が部屋を後にするのを見送ると…美月は布団の中で小さく溜息を零す。…自分のことながら情けない、医者のくせに体調管理もままならないなんて。このことを父様が知ったら、どれだけ注意を受けることやら。…こんなところで横になっているわけにはいかないのに、もっともっと沢山の人を助けなければならないのに。






「…せめて、薬や包帯の整理とかだけでもしておかないと…」


「ちゃんと休んどけって言われたばかりだろうが」


「!…さ、左之さんっ…!?」


「心配になって見に来てみれば…駄目じゃねぇか、横になってねぇと」


「…だ、大丈夫ですよ?私、少し寝て楽になりましたから…」


「駄目だ。おら、ちゃんと寝とけ」






体を起こそうとしていた美月の体は、左之の手によって再び布団へ戻ることとなった。






「…お前が倒れる瞬間、俺は生きた心地しなかったんだぜ…」


「え…?」


「青白い顔して、ちゃんと疲れてんなら休め。じゃねぇとこっちの心臓が保たねぇよ」






そっと優しく彼女の額に触れる左之。彼の手のひらが心地いい。美月は安心しきったようで、瞳を閉じた。





「…ごめんなさい、左之さん…心配、かけてしまって…」


「わかったら、ちゃんと寝ろ。寝付くまで傍にいてやっから」


「…ふふっ…ありがとう、ございます…」


「何か食いてぇもんとか、してほしいとかあったら言えよ。俺に出来ることならしてやるから」


「…じゃあ、一つだけ…いいですか?」


「ん、何だ?」






布団から片手だけ出し、左之に差し出すと…少し照れくさそうに笑いながらも美月は自分の要望を口にする。







「私が眠るまででいいので…手を握っててもらえませんか…?」






左之は返事を返す前に彼女の手を握り返してやる。自分よりも小さな手のひらから愛おしさが感じられた。






「…何も心配いらねぇから、ちゃんと寝て治せよ…美月」


「…はい…左之さん…」






自分の手のひらを覆ってしまうほどの大きな手をそっと握ると…美月はゆっくりと瞼を閉じ…眠りについたのだった。