君に恋することは必然だった
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  • 少年と子猫又の出会い

    猫又一族の頭領の息子であった父と、人間の母との間で生まれた千代は猫又たちが暮らす里を少し離れて、人里に近い場所で暮らしていた。…人間である母を配慮していたのだろう。

    二人の出会いは種族争いで深く傷ついた父を、母が懸命に看病をしたことが始まりだったと聞いている。記憶が残る中では、二人はいつも仲睦まじくて、二人から可愛がられていたと思う。
    ずっと三人で暮らしていたかった。…いずれは、父は猫又の里へ戻り、一族の者と共になることを考えていたと聞いてはいるが…その思いは叶うことなく終わる。


    父は戦いの最中、命を落とし…母は後を追うかのように病気にかかり死んでしまった。残ったのは、まだ幼い千代一人。残された千代にできたのは、永遠の眠りにつく父のすぐ隣に、母を添わせることだけだった。






    「きゅーん…」





    両親が一番恋しい時期に、二人を失ってしまった。寂しくて、寂しくて…千代は二人が眠る場所から離れられずにいた。






    「…くーん…きゅーん…」






    お願いだから、起きて。一人にしないで。寂しいよ、母上、父上。



    半妖の千代は里に戻ることも出来ず、一人ぼっち。寂しいと声を上げて鳴いたところで、どうも変わらないと知っても鳴かずにはいられない。
    ……だが、それが逆によかった。






    「…なんだ?何の声だ?」
    「…っ!!」







    ガサガサと草むらをかき分けて現れたのは一人のやんちゃそうな少年。…母親以外の人間を見たのはこれが初めてで、思ってもいなかった出来事で混乱している千代は慌てふためて、おろおろとしている。





    「きゅんきゅん鳴いていたのはお前か?」
    「…みゃっ…」





    どうしよう、どうしよう。
    そんな千代を物珍しそうに見ている少年はどんどん距離を詰めてくる。





    「これは、お前んちの墓か」






    少し盛り上げた土の上に千代の体で運ぶには精一杯だった石と、供えられた野花。…少年の言葉に、千代は小さく頷き、再び瞳に涙を浮かばせる。

    ……千代も、そっちへ連れてって。独りぼっちは嫌だ…。

    そんな思いがグルグル頭の中を駆け巡る。少年に背を向け、再び両親の墓へ寄り添おうとする千代を制したのは、少年だった。




    「お前、一人か?」
    「……くぅーん」
    「行く当てがここしかねーんなら、俺と来いよ」
    「…??」
    「ほら」







    何故かわからなかったけれど、そう言って手を差し伸ばしてくる少年を拒むことはできなかった。…むしろ、待ち望んでいたのかもしれない。誰かが、独りぼっちになった自分を迎えに来てくれることを。


    両親のお墓へ戻ろうとしていた歩みを、少年の方へ変える。






    「みゃんっ」
    「…ちっちぇーな、お前」






    独りぼっちはもう嫌だった。誰か一緒にいてほしかった。傍にいてほしかった。
    その思いを受け入れてくれてくれた少年こそ、蛮骨だった。