君に恋することは必然だった
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    蛮骨と過ごす日々は、千代にとっては新鮮で、毎日が刺激的だった。
    幼いころからやんちゃだった蛮骨は彼が住む里でも悪さばかりしていて、よく里の人間に疎まれ、怒られていた。が、蛮骨はそれらに悪びれることもなく、むしろ楽しそうだった。





    「やりたいようにやって何が悪い」





    そう平然と言ってのける蛮骨に、千代はついて行く人間を間違えてしまったかと自分の判断を心配したりもしたが…





    「行くぞ、千代」
    「…みゃーん!」






    そう言って自分に向かって差し伸べてくれる彼の掌は温かく、優しくて…当たり前のように抱き上げられ、彼の肩の上に乗せられると、ここが自分の居場所なんだと安心した。

    蛮骨が狭い里の世界から飛び出し、各地を放浪するようになったとき、千代も当然彼へついて行った。戦いに熱中していく蛮骨と共に、千代も戦場の中で生きることを決めた。

    何も怖いことなんてなかった。…傍に蛮骨がいたから。




    「千代、お前ならもっと強くなれんじゃねーの」
    「本当?」
    「ああ…まぁ、俺以上は無理だがな」
    「むー…いつかは蛮骨を守れるくらい強くなるもん…」
    「期待せずに待っててやるか」




    蛮骨の強さは人間とは思えぬほど凄まじかった。戦場へ赴けば、彼に敵う者は一人もいなかった。




    「んなことより腹減ったな…おい、千代なんか食い物」
    「えっと、待ってね…もうすぐ鍋が出来上がるから」




    焚火を利用して鍋をグツグツ煮ているといい香りが辺りを漂う。もう少し煮詰まれば美味しい千代特製鍋の完成だ。軽く味見をしてみると、味加減も絶妙。その横で焼いている魚もいい焼き加減だ。




    「蛮骨、ご飯できたー…よぉ!?」




    寝っ転がっている蛮骨を呼びに行こうと顔を上げると…見覚えのない妙な格好をした男が一人、一緒に鍋を覗き込んでいた。




    「みゃああー!?」
    「うっまそーな匂いだなぁ!もう俺お腹ペッコペコでさ〜」
    「え、え…えええ!?ば、蛮骨ー!蛮骨ぅう!!」




    だ、誰なのこの人!なんで一緒に食べる前提なの!?
    パニック状態の千代は慌てて蛮骨をたたき起こしたのだった。