君に恋することは必然だった
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  • 蛮骨と蛇骨と猫又

    「おい千代、何変な奴招き入れてんだよ」
    「招いてないよ!?気づいたらいたんだもん!ていうか、蛮骨の知り合いじゃないの?」
    「知らねーよ」
    「なー、何ゴチャゴチャ言ってんだ?せっかくの飯が冷めちまうぜ?」
    「お前が言うのかよ」
    「あ、あはは…」




    三人で鍋を囲んで食事をしているこの状況はどうしたものかと千代は乾いた笑い声を上げるしかなかった。
    「俺、腹が減ってもう動けねぇんだよぉ」と泣きついてきた女性ものの着物を着崩す彼は蛇骨という名前らしい。




    「うめーな、この飯。久々に俺、こんなうまいの食べたぜ」
    「ほ、ほんとに?」
    「俺、女なんて嫌いだけど、お前が作った飯は好きだな〜。あ、おかわりある?」
    「うん、ちょっと待ってね〜…はいどうぞ!」




    蛇骨が褒めてくれるものだから、千代は嬉しそうにはにかんで、彼から皿を受け取る。そしてまたそれを美味しそうに食べてくれるから見ていて気持ちがよかった。
    その様子を蛮骨はつまらなそうに眺めながら、蛇骨の武器へ視線を移す。




    「なぁ、俺と手合わせねぇか」
    「ん?」
    「その刀は飾りじゃねーんだろ?」




    蛮骨がニヤリと口元に笑みを浮かべながらそう告げると、蛇骨も先ほどまで無邪気にご飯を食べていた表情からは想像できないほど、戦いに興ずる者の顔をしていた。




    「いいねぇ〜…俺の好みなわけじゃないけど、可愛い顔してるし」
    「……」
    「……」




    …いや、これは戦いに興ずる者の表情…なんだろうか?少し違う気もする。ちらり、と隣にいる蛮骨を見てみれば、蛮骨は完全に蛇骨に引いていた。




    「…ば、蛮骨…やっぱりこの人ちょっと変わってる気がするんだけど…」
    「……まぁ、いいだろ」




    食事を終えると、すぐに二人はそれぞれの武器を手に取り、ぶつかり合い始めた。その様子を千代は少し離れたところで見ることにする。二人の戦いはただただ激しく、人間とは思えない動きだ。
    …が、力量では蛮骨は蛇骨を遥かに超えていて、すぐに勝負に決着がついた。




    「…あ〜あ…負けちまった…。可愛い顔して結構やるじゃねぇか」
    「誰が可愛い顔だ!」
    「…けどこんなにワクワクする戦いはひっさびさだったなぁ〜!なぁなぁ、俺さ、お前らに付いて行ってもいいか?」
    「はぁ!?」
    「えぇ!?」



    蛇骨の言葉に蛮骨も千代も驚きの言葉を漏らす。…だが、そんなことお構いなしで蛇骨は話をどんどん進めていく。




    「お前らといると楽しいしさ〜、飯もうまいし。別に俺、目的があって放浪してるわけじゃねぇしな〜」




    あははは、と笑いながら告げる蛇骨は既にもう決めているようで…その考えを改める気はなさそうだ。




    「なぁなぁ!いいだろ〜?」
    「…ま、いいか別に」
    「え、いいの!?」
    「こいつ、ちょっと変だけど悪い奴じゃなさそうだしな〜」




    そう告げる蛮骨に、彼がただ単に頭を使いたくないだけであることを察する千代。…だが、「わーい」と無邪気に喜ぶ蛇骨を見て、千代も蛮骨につられて「まぁいいよね」と呟いた。
    斯くして、後の七人隊切り込み隊長蛇骨はこうして仲間となったのだった。