君に恋することは必然だった
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  • 猫又とまたたび

    「わぁー!可愛い〜!!」
    「おいでおいで〜!!」
    「みゃんっ」



    蛮骨と蛇骨が戦に駆り出ている中、千代は食料確保のため人里に降りていた。
    大抵は猫又の姿でふらつくので、その容姿から子供たちになつかれるのは毎度のことで、よく声をかけられたり、撫でられたりするので、それに応える。




    「ふふ、かっわいいなぁ〜よしよし…なんかあげられるものないかなぁ?」
    「あ!そういえば、家にいいものあるよ!猫ちゃんが大好物なんだって!」
    「…みゃーん?」




    正式には猫ではなく、猫又だが…まぁそれは置いといて。
    子供たちがお皿にうつしてくれたのは、何かの飲み物だった。見たことのないものだったが、美味しそうな香りが千代を誘う。




    「はいどうぞー!たーんと召し上がれ」




    言われるがまま、千代はそれを舌で舐めた。…次の瞬間、千代は頭の中が真っ白になるのを感じた。






    「なぁ、蛮骨の兄貴〜。千代が戻ってくるの遅くねーか?」
    「あのバカ、どこまでほっつき歩いてるんだか」



    人里に行ったきり、戻ってこない千代を連れ戻すために蛇骨と蛮骨は人里を訪れていた。




    「どこ行っちまったんだろうな〜。俺もう腹減って限界なんだけどな〜…」
    「グダグダ言ってねーで探せ。どうせ千代のことだから、猫又の姿でその辺ほっつき歩いて…」
    「あー!!」
    「なんだよ蛇骨。いきなりでけー声出しやがって…!」
    「いたよ、兄貴!!千代!!あんなところで寝てやがる!」
    「…はぁ?」




    蛇骨が指さす方へ視線をやれば、確かに草っぱらの上で横になっている猫又姿の千代がいた。




    「おい千代」
    「…みゃー…ばんこつ…?…」
    「…?なんだお前、酔っぱらってんのか?」
    「…みゃーん」




    頬が赤く、普段よりも体温が高く、息が荒い。とろーんとした瞳を見て、蛮骨は確信した。




    「何俺らより先に飲んで酔っ払ってんだよ」
    「ずりーよな」
    「みゅう…ばん、こつ…ばんこつぅー」




    すりすり…と無邪気に蛮骨へ頬を摺り寄せてくる千代。普段から蛮骨に対して素直な態度をとる千代だが、こうも従順に懐く態度をとることはあまりなく…そんな彼女に蛮骨は一瞬呆気にとられ、身動きとれなかった。




    「あれあれ?どうしちまったんだ、兄貴。顔が少し赤い気が…」
    「……なんでもねぇ!」
    「?そう」



    蛇骨の指摘を蹴散らし、蛮骨は未だに自分にすり寄ってくる千代を手に抱く。




    「…蛇骨、お前今日どっかで寝てろ」
    「は?どっかでどこだよ?」
    「んなもん知るかよ!いいか?ぜってー俺らの元に戻ってくんなよ」
    「ひでーよ!蛮骨の兄貴!俺の扱いひどすぎる!!」




    文句を言い続ける蛇骨を放置して、蛮骨は千代を抱きながらこの場を後にしたのだった。