彼女に一直線


「それはギンが悪いわ」
「…乱菊に言われへんでもわかっとるわ…」






琥珀が飛び出して行ってしまった後…そのショックのあまり茫然としていたギンだったが、しばらくして何が起きたのかを思い出し、伝令神機を使って乱菊を部屋に呼び出した。






「…あー僕どないしよ…!琥珀に嫌いて言われてもた…もう僕生きてへんわ…」
「ちょっとは落ち着きなさいよ」
「これが落ち着いてられへんわ!…はぁ…琥珀……」






しょぼん、と普段見ることなど出来ないであろう…ギンが落胆してしまっている姿。生気が全くと言っていいほど感じられない彼の様子に乱菊は溜息を零した。







「…けど、琥珀がギンと喧嘩してまで慰安旅行に行きたいって言うなんて予想外よね」
「…何?」
「だって、あの琥珀よ?こんな胡散臭い狐顔の男一筋の琥珀が」
「何やその言い草。気にいらへんな…」
「…ギンのことが大好きな琥珀が、そんな風に言ってくれただなんて私的には嬉しいわよ」






それだけ琥珀の中で余裕を持って、他人と接することが出来るようになったと言う証ではないか。また、ギンだけではなく自分にも懐いて来ているのが目に見えてわかるのがまた嬉しく思う。






「僕は全然嬉しゅうない」






ギンにとってみれば、そんなこと無意味なことなのかもしれないが。





「まぁそう膨れないでよ。…琥珀も親離れしてってる証拠なのね〜…」
「そんなんまだ早いわ!ていうか、琥珀はそんなんせんでええ。ずっと僕と一緒でええねん」
「…ギンの方が子離れできなくて苦労しそうね」






ギンの琥珀離れが出来ないところを見て、乱菊は呆れて目を細める。…ギンはわかっていないのだろうか?彼女にとって、ギンは他の誰にも代わりが出来ない…たった一人の存在だということに。







「…大体乱菊が悪いんや。僕の琥珀を勝手に海に連れてくなんて言うさかい…」
「何よ、私のせい?…あ、だったらギンも行けばいいじゃない」
「…行くって、どこへや?」
「海」
「はぁ!?」
「いいじゃない、それ!そしたらギンも琥珀の水着姿見られるわよ〜!」
「!…えぇなぁ、それ……」






ぼんやりとそのことを想像し、一気に落胆した表情からにやけ顔へと変貌するギン。…わかりやすい性格である。






「じゃあそういうことでそろそろ琥珀を呼ぶわよ?勇音が保護してるらしいし、連れて来てもらうわよ?」
「ほな、琥珀の水着もちゃんと僕が選んでやらんとあかんなぁ!あー何色がええやろ…それともデザイン重視の方がええんやろか…」
「……ほんっと、琥珀のこととなるといっつもこうなんだから」






伝令神機で勇音に、ギンの機嫌がよくなったから琥珀を連れて来てほしいと連絡。しばらくして琥珀が勇音に手を引かれて戻って来たのだった。
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