始まりの合図
「ギンちゃんギンちゃん!」
「何や〜、琥珀」
「見て見て、お花だよ!綺麗だね!」
「あぁ、ほんまや。満開やな〜」





琥珀が指を指す方向には、満開の桜並木が続いている。桃色の花びらはあちこちに舞い、この場所を通る人を歓迎しているかのようだった。





「…琥珀ね、この花、だーいすき」
「そうなん?なんで?」
「だって、ギンちゃんと初めて会ったときも咲いてたもん!」





そのことを嬉しそうに告げる彼女の姿が、愛しい。自分の存在を何よりも大切に思ってくれている彼女が、愛しくて仕方がない。





「そやったな〜…もう何年前のことやろか…」
「ギンちゃん…?」





確かギンが護廷十三隊に入ったころだった。
彼女に声を駆けたのは、ほんの気まぐれからだった。彼女に特別な興味を持っていたとか、そんな思惑など持ち合わせてはいなくて。ただ、自分の視界を過ぎったのがたまたま琥珀だったと言うだけだ。






『君君、あかんよ〜。ここは虚が出るから危ないで』
『…お花』
『花?…あぁ、もう桜が咲く時期やでな…』
『…綺麗…好き』






そう呟いた横顔から儚さを感じて、自分よりもかなり年下の子供に見惚れてしまった自分がいた。





『…なぁ、君よかったら一緒に来ん?』
『…うん、行く』





自分から誘っておいて、こんな怪しい奴に誰がついて来るかと思ったが…彼女は予想外にも自分と一緒に来ることを拒まなかった。






『名前は、何て言うん?』
『…ない』
『ない?』
『…名前、ないの』
『…そうか、なら僕が君に付けてあげるよ。琥珀、なんてどーや?』
『…琥珀…?…うん、琥珀』






確認するかのように僕が名づけた名前を繰り返し呟く少女…琥珀。ふわり、と微笑む彼女の笑顔にどこか見覚えがある気がしたが、ギンは単なる気のせいだと軽く流した。
これが、僕達二人の出会い。






「…ほな、そろそろ帰ろうか?琥珀」
「うんっギンちゃん」





ぎゅっと昔から変わらず自分の手を握ってくる琥珀の手を、優しく握り返す。自分よりもはるかに小さな手のひら。
いつからだろう、この手を決して手放さないと思うようになったのは。この小さな存在を絶対に守ろうと決意したのは。

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