激甘状態


「ギン、琥珀!遊びに来たわよ〜」
「何や、乱菊やないの…」
「乱ちゃん!」
「何や、って何よ失礼ね。琥珀〜アンタはほんとギンに似ずいい子ね〜」




突如現れた乱菊にギン、琥珀はそれぞれ言葉を洩らす。乱菊はと言うと、嬉しそうに自分の傍に駆け寄って来てくれた琥珀の頭を優しく撫でてやりながら三番隊のチェアに腰を下ろした。



「今日は琥珀にいいもの持ってきてあげたわよ」
「いいもの?」
「まさか酒ちゃうやろな?」
「失礼ね、いくら私でもそんなもの琥珀にあげないわよ。こないだ現世に行ったついでに…ほら!琥珀に似合うワンピース買ってきてあげたわよ〜!」




買い物袋から取り出された真っ白のワンピース。裾に軽くフリルがあるが、至ってシンプルなデザインのそれを見て、琥珀は嬉しそうに笑った。




「こういうこと、ギンは気づかないだろうしね」
「乱ちゃん、現世に任務だったの?」
「そんなんじゃないのよ。ただ買い物に行きたかっただけ。仕事は隊長に任せたの」
「乱菊、ほんまにそんなんで副隊長務まってんな。十番隊隊長さんに同情するわ」
「その言葉、そっくりそのままギンに返すわ。吉良も大変よね、ギンのもとで」
「ねぇね、ギンちゃん!琥珀、これ着たい!ちょっとだけ着てみてもいい?」




ギンと乱菊の口論の間に入って、琥珀は乱菊からもらったワンピースを握って少しだけ着てみたいと話す。




「ええよ、着てみ?僕のために琥珀がこの服着てるとこ見せてや」
「うんっ」




ギンの言葉にますます嬉しそうに笑う琥珀。パタパタ…と小さな足音を立てながら着替えに行く彼女の背を眺めながらギンはポツリと呟いた。






「…あー、ほんの少し前までは僕が琥珀の服を着替えさせとったんやけどな〜…」
「ほんと、危なかったわね…」
「…それどういう意味なん、乱菊」
「べっつに〜」




乱菊の一言にむすっと不機嫌そうに顔をしかめギン。…だが、琥珀が着替え終えて、戻ってきたときにはその表情は一瞬でなくなった。





「ギンちゃん、乱ちゃん!どう?似合ってる…?」
「…!琥珀……」
「あらー!よく似合ってるわよ〜琥珀!ふふっさすが私ね、見立てがいいわね〜」
「………」
「ギン、ちゃん…?」
「…ちょっとギン、何か一言でも感想ないわけ?」





琥珀が着替え終わると乱菊は自分の見立てのよさを自画自賛しながらも、琥珀に似合っていると褒める。…が、ギンはジッとただただ琥珀を眺めるだけで何も言わない。
そんなギンの様子に琥珀は段々不安そうに眉を寄せた。






「ぎ、ギンちゃん…似合わなかった?ごめんね…今着替えてくるから…っわぁ!?」
「…ほんっま、ごっつ可愛えぇな〜琥珀」




慌てて再び着替えに戻ろうとする琥珀を、背後から抱き上げるギン。すりすり…と頬を擦り合わせ、ぎゅう…と彼女を抱きしめる力を強めた。





「…?ギンちゃん、琥珀、この服似合わない…?」
「んなわけないやん。ほんま可愛えぇ〜琥珀は。あまりの可愛さに僕、思わず見惚れてもたわ」
「…ほんと?」
「僕、琥珀に嘘ついたことないやろ?」
「…うん!」






ギンの褒め言葉に琥珀の表情に笑みが戻る。今度は琥珀がギンにしがみついた。






「…ほんと、甘いを通り過ぎて激甘!って感じね…」




そんなギンと琥珀の様子を眺めながら、乱菊は呆れ混じりで呟いたのだった。
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