ふたりだけの秘密
琥珀から話を聞けば、どうやら他の生徒がギンと仲がいい琥珀を妬み、彼女をいじめているらしい。何よりも、そのことを琥珀が一度もギンに伝えていないことに乱菊は驚かされた。






「ギンに言えば、こんな真似する連中なんて一捻りだって言うのに…」
「…だって…ギンちゃんに、嫌われたくないから……」
「嫌われる?」
「…ギンちゃん、いつも言うもん…みんなと仲良く、いい子で頑張るんやで…って。だから琥珀……」
「琥珀……」
「…ふぇ…ギンちゃんに、嫌われたくないよぉ…」





ギンにとっては何気ない言葉だったに違いない。だが、琥珀にとってはギンの一言が全てなのだ。いい子でなければギンに嫌われる…ならば、ギンの言われた通りしなければ……と、この小さい体で全て受け止めて今まで一人で苛めに耐えて来たのだろう。





「…馬鹿ね、ギンが琥珀を嫌いになるわけないじゃない」





乱菊はそう告げ、琥珀を励まそうとするがきっと彼女の耳には届かないだろう。誰よりも何よりもギンが彼女の全てだから。






「…わかったわ、このことはギンには言わないわよ」
「…ほんと…?」
「ほんとほんと。ただし、こういうことがあったら、私に頼ること?いい?」
「!……けど、乱ちゃん……」
「ほーら、そんなめそめそしない!」





琥珀の両頬を自分の両手で包み込む乱菊。真っ赤に腫れている頬が痛々しい。





「レディが顔に傷なんて残しちゃ駄目よ」
「れでぃ…?」
「それに、そんなめそめそしてたらせっかくの可愛い顔が台無しじゃない。笑ってなさいよ、琥珀」
「…笑う?」
「琥珀は、笑っている顔が一番可愛いわよ」
「…っ乱ちゃん…」





ボロボロと涙を流す琥珀を抱きしめる乱菊。小さくて、細くて、こんなにも弱いのにギンのことになると人一倍我慢する少女。






「…ほら、行くわよ。」
「…行くって…?」
「その顔…ギンに見られたらまずいんでしょ?」
「…う、うん…」




そっと琥珀に手を差し出せば、琥珀は乱菊の手を恐る恐ると言った様子で握った。







「四番隊でしっかり治してもらわないとね」
「…!うん!」






ギンの前では甘えん坊なくせに、ギンのことになると凛とした強さを持つ少女。それが、琥珀だった。…きっとギンはこんな彼女の強さをまだ知らないんだろうけどね
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