▼ Ritorno a casa

俺に自分の部屋はない。
いや、あるのだけどないに等しかった。

それは何故か、と言うと部屋にあまり帰らないからだ。
否、"帰れない"が正しいのかもしれない。



「"僕なら絶対に…あの男のようにキミのことを泣かせたりはしない…"カーッ!なんだそのセリフ!」

「良いから仕事してくれませんか。」



俺が今居るのは、俺が所属するボンゴレのボスでもある沢田綱吉の仕事部屋。
その部屋で仕事をしている…わけでもなく、綱吉の愛しのガールフレンド(綱吉が奥手なためまだ付き合っていない)でもある笹川京子から借りた大量の少女漫画を読ませてもらっている。

臭いセリフに頭を掻き回して、寒過ぎるが故に虫酸が走るのを必死に抑えていた。
そんな俺を見て頭を抱えているのは、もちろんこの部屋の主である沢田綱吉だ。
彼が中学生の頃から付き合いはあるものの、そのときは俺の不真面目さを知らなかったらしく驚いていたっけ。



「俺、事務仕事嫌いだもーん。」

「例え事務仕事でなくても、結局は報告書なんかの仕事はあるんですけどね…。」

「そういうのは部下に任せれば良いの。」



はあ、と深い溜息を零しつつ、報告書なんかの仕事もある、と言う綱吉。
俺は報告書なんかの作成も嫌いなため、いつも部下に伝えて書かせていた。

そんな俺に、仕事が舞い込む。



「雄魔さん、米花町ってご存知ですか?」

「米花町?あー、なんか杯戸町と米花町で事件多発ーとかでちょっと訊いたことはあるなー。」

「はい。それで米花町で住み込んで、杯戸町と米花町の警備に当たってほしいんです。」

「ふーん。ま、たいくつな警備でもこんな事務仕事よりかはだいぶマシか。」



ふと綱吉から話しを振られ、米花町に住み込みで警戒に当たれと言われた。
普通に殺人事件なんかが多いって、誰かが言っていたのを訊いた気がする。

一般的な殺人事件であれば、俺たちが関わることなんて100%あり得はしない。
なのにそこへ俺が行く、ってことは…まあ、何かしらの同業さんが絡んでいるんだろう。
世の中物騒になったもんだね。

俺の部下数名を事務仕事要員として残し、残りの部下を引き連れることにした。
俺の部下専用にホテルを借り、俺はボンゴレが手配したマンションに住むらしい。
まあ基本的には俺がひとりで行動して情報などを掴み、そして部下を使うときは使って処理をするから怪しまれないように俺と一緒には住めない、というわけだ。

小さい仕事は嫌いなんだよね。
ボスを殺したりなんたりするときだけ、大物狩りが大好きな俺が出向くってわけ。



「それで?事務仕事要員以外の俺の部下は全員日本に連れてって良いんだっけ?」

「いえ、情報用にも数名お願いします。雄魔さんのところは骸と組んでの情報収集のやり取りもあるので。」

「りょーかい。」



それから、綱吉から今回の任務の概要やらを詳しくみっちりと説明された。
暗殺やらを揉み消している組織があり、その組織と関わりを持つファミリーが世界中に何個かあるらしい。

そのうち日本に居るのは5つ。
日本は俺と雲雀が主に担当し、俺は固まって存在し、さらに怪しい組織と取引をしようとしているマフィアたちを壊滅させるらしい。
今回は俺の取り分が多いから、戦闘狂である雲雀は拗ねるんだろうなあ…めんどくさ。

と言うより、俺今ボンゴレ本部(つまりはイタリア)に居るんだから、別に俺がわざわざ日本へと行かなくても良いんじゃないだろうか。
まあ綱吉が決めたことだし、日本に居ようがイタリアに居ようが、結局やることは同じみたいだからこの際なんでも良いんだけど。

どうにも綱吉は、そう言った組織と関わっているファミリーをしらみ潰しにするようだった。
組織自体もかなり怪しいらしいし、当然と言えば当然の報いなんだろうけど。



「で、いつ行くんだよ。」

「出発出来るようなら、明日にでもお願いしたいです。他にもまだまだ仕事はあるので。」



あとから付け加えられた、綱吉の「雄魔さんがワガママ言って溜めてる事務処理の仕事がね」というのは聞かなかったことにさせてもらう。
ついでに部下に全部やってもらうしかない。
何度も言うように、俺はそういう事務仕事という退屈なものが1番嫌いなのだから。

仕事を後回しにし、部屋へと戻る。
あまり使っていないとは言え、俺の荷物は全部その部屋に置いてあるからだ。
後ろで「まだ今日の分終わってないですよ!」と叫んでいる綱吉は、また無視する。

それにしても…日本、か。
日本へ行くのはいつぶりだろうか。
綱吉たちがイタリアに来てからは、基本的に日本へは出向いていない。
あちらには雲雀や笹川が居るからだ。

恐らく2年は行っていない故郷へ向かうことに、ほんのすこしだけ胸が跳ねる。
帰ったら新しい漫画でも仕入れてこよう。


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