▼ Treno di mistero - 2

コナンくんを部屋から追い出し、部下に取り付けさせていた監視カメラの映像を調べる。
取り付けた監視カメラの場所は各号車の扉。
別のパソコンではリアルタイムで監視しつつも、さらにまた別のパソコンで録画していた映像を観ている。
まさか奴らも、こんな風に俺から監視されているとは思ってもいな………ん?

な ん で こ い つ が こ こ に い る ! ?

思わず目を丸くして固まってしまう。
巻き戻しをして何度も確認したが、俺の見間違いなんかではないらしい。



「な、んで…!?」



乗車口で映っていたのは、帽子を深く被って変装しているようにも思えるにしろ、もはやもろバレ状態でもある安室透の姿だった。
いつもの安室とはすこし違う…、ヘラヘラしていない、真面目な顔付き。

しかも、だ。
ここには安室や子どもたちだけではない…。
沖矢までもが、この列車に乗り込んでいた。

顔見知りがここまで多いだなんて、誰が想像出来る?
なんとなくすこしの疑惑と不安を脳が訴えるが、俺が気にしたところで結局のところ関係はない。
どのみち、マフィアである俺が一般人に手を出して良いことではないのだから。



「出発した、か…。」



いよいよベルツリー急行が出発し、これ以上の乗客は増えないことになった。
カメラを見る限りでは…ファミリーの一員と思えるような奴はひとりも居ない。
もしかすると途中で何処かから侵入する手立て、ということか…うん、ケチだな。

まあ、もしくはそのファミリーの一員は変装をして、既に潜り込んでいるのかもしれない。
そうなれば変装でスーツなんて着ないだろうし、私服であっても途中で着替える可能性もある。

くそ、まさか発見出来ないとは。
もしかすると、裏で何者かが手引きしている可能性もまだ僅かにだが残されている。
奴らは上手く変装出来るような人材を保持していないのだから…あるとすれば、取引相手でもある組織…か。

見付けられなかった以上、このカメラの映像を観ていたところでなんら意味はない。
パソコンを片付けて仕舞い込み、いつ誰が訪れても大丈夫なようにセッティングする。
もし出しっ放しにしていたら、またあの探偵くんが来たときに言い訳に困るからね(触られても困るし)。

取引場所の目星は、だいたい付いている。
もし違ったとしても各号車に取り付けた隠しカメラを、ホテルに住まわせている部下が監視しているから取り敢えずは大丈夫だろう。

−−−コンコン

奴らが動き出すまでゆっくりとしておこう、と思った矢先、ドアがノックされる。
どうせコナンくんか、もしくは口を滑らせたコナンくんの話しを訊いて少年探偵団が遊びにでも来たのだろう。
止まらない列車の中は、退屈だから。



「はいは…−ッ!?」



油断していたのかもしれない。
気を抜いてドアを開けると、そこには予想もしていなかった人物の姿があった。



「…沖矢さん?どうしてここに?」

「ええ。コナンくんからあなたがこの列車に乗っていると訊きまして。コーヒーでも飲みながら、少々…お話でもいかがですか?」

「…へえ。嬉しいお誘いだ。」



そこに立っていたのは、沖矢だった。
顔色ひとつ変えない沖矢は、冷静そのもの。
すこしは動揺を見せても良いんじゃないか?

沖矢は自身が持ってきたコーヒー2缶をテーブルに置き、向き合って話す体勢を作る。
さて、こいつは何を話したいのやら。
ま、だいたいは想像が出来ているけど。



「コナンくんから訊きました。彼が企てた今回の作戦を如月さんにも手伝ってもらう…と。」

「ああ、それ。俺も詳しくは知らないんですけど、子どもたちの安全を守ることに協力してくれ、と必死な顔で言われたので。守ることだけは手伝います。」



沖矢の話しを訊いて、やっぱりな、と納得。
なんの知らせも受けていないであろう子どもたちを見ていると、コナンくんが昨日言っていた"作戦"というものに関係しているのだろう。

それは容易に想像出来ていたので、そのことを訊かれても特に焦りなんかはなかった。

それにしても、やっぱり俺は誰から見ても要注意人物に変わりはないってことね。
作戦に護衛として加わる、ということはそれなりに警戒を解かれてはいるのだろうが。

詳しい作戦内容は訊かされていない。
それはつまり…俺を信用するにはまだ何か確証が足りない、ということなのだろう。

うん、全然良いと思うよ、確信が持てるまでその人のことを疑うっていうのは。
もしコナンくんが小学生でなければ、ぜひボンゴレの一員として迎えたかったね。
まあ、彼は探偵だから即行で拒否されるんだろうけど。



「まあ、それも条件付きなんですけど。」

「条件、ですか…。如月雄魔…。あなたはいったい、何者なんですか?まさか危険な方では…。」

「…いえ?俺はただの"マフィア(探偵)"ですよ。」



沖矢の問いに対し、にんまりと笑みを浮かべて俺はあくまでも探偵なのだと答えてやる。
しかし探偵とは名ばかりで、俺はマフィアだ。
市民を守るよう綱吉には言われていたし、そもそもここへ来たのは警備を含めているから、護衛というコナンくんからの頼みを断る理由もない。

けれど、条件を出させてもらった。
それは"俺の用事が最優先で用事が終わり次第彼ら少年探偵団のことを守る"、と…。
その用事についてはしつこく訊かれたが、そこは上手く誤魔化しておいた。
変に首を突っ込まれて、マフィア同士の闘争に一般人を巻き込むのは嫌なもんでね。


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