▼ Treno di mistero - 3

「さて、と…。」



そろそろ相手も動き出す頃合いだろう。
とっとと決着をつけて、コナンくんとの約束を果たすために子どもたちと合流せねば。

もしも向こうが俺と同じく観察していたとしたら、この場にすら来ない可能性もある。
俺の部下がカメラを付けたとき、乗降口には隠しカメラはなかったと言うが…。
出発する駅のホームにカメラを付けていた可能性もなきにしもあらず、なのだ。

武器を服の中に装備し、攻撃用の匣をベルトに着けていると悲鳴が聞こえた。
ちょっとした好奇心でふらりと顔を覗かせてみると、どうやら事件があったらしく車内は騒然としている。
本当に、コナンくん(彼)は何かしらの事件を引き寄せる生き物らしいねぇ。



「あ!雄魔さんだ!」

「ん?」

「ちょ、蘭!誰よこのイケメン!」

「え…?えっと…みんなの知り合い…なのかな?」



ひょっこりと扉から顔を覗かせていると、そこには何故か少年探偵団の姿が。
まあ、少年探偵団とは言えど、予想通りコナンくんの姿は見当たらないけども。

その少年探偵団の近くに居るのは、見慣れない高校生くらいの女の子がふたり。
カチューシャを着けている子は俺を見て「イケメン!」と興奮し、もうひとりのロングヘアの美人はすこし戸惑っているようにも見えた。
うん、このカチューシャの子、良い子だわ。



「雄魔さんはすっごーい探偵さんなの!」

「そう言えば、雄魔さんもこのベルツリー急行に乗るかもって言ってましたもんね。心強いです!」

「兄ちゃんが居れば、この事件だって簡単に解決しちゃうぜ!」

「ははは…。それはちょっと、俺のこと買い被り過ぎ…じゃねぇのかなあ…。」



歩美ちゃんを筆頭に、光彦くんと元太くんも俺を評価する言葉を並べる。
それを訊いて、ふたりの女の子は困ったような…「またか」、とでも言うような、なんとも言い表し難い、難しい表情を浮かべていた。

まあ、気持ちは解らなくもないさ。
どうせコナンくんとも知り合いなんだろう、周りに探偵ばっかりだと飽きるわな。
俺は探偵なんかじゃないけど。



「どうも。俺は如月雄魔です。この探偵団とはつい最近知り合ったんですヨ。」

「そうなんですね。わたし、毛利蘭です。」

「鈴木園子でーっす!まさかこの列車にこんなイケメンが乗ってるなんて!あ、もしかして、雄魔さんも推理オタクなんじゃ…?」

「いや、そういうわけでは…。」



自己紹介をしたのち、俺は推理オタクなのかと園子ちゃんから訊かれる。
まあ、これは行き先不明でイベントと称して事件が起こる、ミステリートレイン。
あの騒ぎを見るからにあれはイベントなんかではなさそうだったが、まあ事件が発生したのでコナンくんが解決に勤しんでいるっていうやつなのかネ。

話しは逸れたが、そういう売り文句で人気を博しているのだから彼女が「推理オタクなのか」と訊いてくるのも致し方ないのだろう。
俺の場合、この前のあれは推理なんかじゃなくて経験からくるただの憶測に過ぎないんだけど。

でもまあ、護るべき人は覚えた。
俺は俺の仕事を済ませたあと、この子たちと合流してそれとなく観察していたら良い。
それにしてもコナンくん、よくもまあただの探偵に護衛なんて頼んだよな。
第六感、ってやつ?



「…っと、失礼。電話ですね。」

「あ、すみません、この子たちが引き留めちゃったみたいで…。」

「いえいえ。…じゃあな、探偵団。もしかしたら、またあとで会うかもしれねぇけど。」



子どもたちと別れ、未だに鳴っている携帯を一瞥し、着信ボタンをタップする。
「もしもし」と電話に出ると、聞こえてきたのは「動き出しました」という言葉。

そう、電話を掛けて来たのは俺の部下で。
どうやら例のファミリーの動向が掴めたらしいので、俺に報告してきたんだ。

動き出したのなら、あとは簡単。
一般人(と言っても本当の一般人からしてみたら異世界の住人なのだろうけど)が来る前に始末してしまえば、あとはどうとでも誤魔化せるし掟破りにもならない。



「ご苦労さん。じゃ、また連絡すっから報告書類とかはそっちでよろしくな。」

『…如月さん、そろそろ俺たちがボスに怒られます。』

「あー、いーよいーよ。どーせ俺が書いたところでひっちゃかめっちゃかなのは目に見えてるし、それなら最初っからおまえらに頼んだ方が賢いって。」

『ちょ、如月さん!』



部下の反論も訊かず、電話を切る。
あーあ、こりゃ怒ってんだろうなぁ…。
今度部下全員に何か贈ってやらねぇと面倒なことになりそうだし…何か買っておくか。

取り敢えず俺は部下から聞き出した場所へと向かうために、喧騒としている車内に出た。
準備したあとに言われて良かったと、一安心。

さぁて。
お楽しみの、ゲームのはじまりだ。


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