▼ Treno di mistero - 4

俺が来たのは、ベルツリー急行の車体の上。
ここは最後尾だから、八号車あたりだ。

黒のスーツを靡かせて、相手の到着を待つ。
しばらくすると微かな物音が聞こえてきたので、奴らマリーナファミリーの誰かが取引をするために、ここへ来たのだと理解した。



「…約束のもの、お持ちしましたよ。」



コソッと話し掛けてくるあたり、こいつは俺からしてみたらハズレの人間だ。
ボスなんかではなく、ただの下っ端。
それで上からは、取引相手にあまり強く出るな、とでも言われているんだろう。

気配も弱ければ、気にしなければならないことへの配慮がことごとく中途半端過ぎる。
こんな末端を始末しようが意味を成さないとは思うのだが、始末しなければ捉えられるものも捉えられないし取引を遂行されてしまっても困るからねー。

くるりと相手に振り返ると、その男は「ひぃっ…!」と情けない声を上げた。
おまえ、俺の顔を見て顔引き攣らせるなよ。
それじゃまるで、俺が幽霊かなにかみたいじゃねぇか。



「ぐ、紅蓮の死神…!!」

「ん?あ、なーんだなんだ、なるほどねー。そう言うことかよばーか。」



怯えながらも、「紅蓮の死神」とはっきり口にしたことで、なぜ顔を引き攣らせたのかがすぐに理解出来た。
俺を見た奴には死が待っている、って言われてるんだ、そりゃあ普通なら怯えるだろう。

男が手にしたアタッシュケースを奪い、何が入っているのかと一応中身を確認する(予想は出来ているけど)。
中には部下が言ってたように、何かの薬品に使うようなものが大量に入っていた。
これで何をするかは知らないが、まあ、ボンゴレに目を付けられたファミリーってことで…恨むんなら自分とこのファミリーを恨めよ、っと。



「ばいびー。」



サイレンサーを付けた銃で、脳幹を一撃。
遺体を列車の後ろ側まで運び、適当なところで見えないよう、静かにそれを突き落とした。
あとは、待機している部下に任せれば良い。

部屋に戻るために、列車の上を歩く。
さっきの奴はどちらにせよ、ボンゴレがこの件で動き出した、と奴らに示すため殺す手筈になっていたし、綱吉からのお咎めも特にはないだろう。
ほら、俺ってもともとリボーンと同志だし?
ボンゴレ直属のヒットマンだったってヤツよ。

部屋に戻った俺は、取り敢えず血や火薬の匂いを消すため、新しいスーツに着替える。
血の匂いしかり、火薬の匂いしかり。
きっとコナンくんなら、そんな細かいところまで目敏く気が付くだろうから。



「さて。彼との約束を果たしてあげようかな…。」



彼らの小さな騎士(ナイト)との約束を果たすために、着替えを済ませて部屋を出る。
探偵団たちが取っている部屋はもう調べがついてるし、列車の中で悩むこともない。

必要に応じて人は殺すくせに、自らを自警団と名乗り、一般市民を守るボンゴレ。
その矛盾染みた肩書きを嘲笑うかのように、誰かに見られることもなく俺は小さく微笑んだ。


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