▼ Treno di mistero - 5

「雄魔さん!」

「ん?…ゲッ。」



ミステリートレイン…ベルツリー急行は、殺人事件発生と爆発発生のため最寄駅で途中下車することになった。
おいおい、俺でも爆発はさせてねぇのに…。
世の中には野蛮な奴も増えたもんだ。

そんなことを思いながら列車から降りていると、名前を呼ばれたので振り返る。
けれど振り返ったあと、すこし後悔した。

そこに居たのは、会いたくなかった安室透。
乗り込んだときを見ているから来ていることは知っていたが、まさかこんなところで安室と出くわしてしまうとは思わなかった…(と言うかいつの間に名前で呼ばれる関係になったって言うんだ)。



「あなたも乗っていたんですね。」

「まあ…誘われ、て。」

「…誘われて?誰に誘われたんです?誘った方は今、いらっしゃらないんですか?」



すこし楽しそうに話し掛けてくる安室。
探偵団に「友だちから誘われている」と言っているのにも関わらず、安室に違うことを言えば矛盾していることに気付かれる可能性も高い。
なので探偵団たちに使ったのと同じ、誘われたから、という理由を言えば、安室は何故だか知らないが不機嫌そうに表情を歪ませた。

不機嫌そうになったなー、と思ったら、今度はマシンガンのように質問攻め。
それに対して引きつつも、知人に誘われたがその知人は行けなくなってしまったのでひとりでここに来ている、と説明すると黙り込んだ。
え、なぜ黙り込む?



「そうでしたか。でしたらこのあと、お時間ありますよね?雄魔さんもひとりですから。」

「え?あ、いや、時間があるわけでは…。」

「ありますよね?」

「………はぁ。…時間、ありますよ。」



しばらくしていつもの胡散臭い笑顔を浮かべたと思ったら時間はあるのかと訊いてきた。
実際は後始末や報告書は部下に任せているし、俺は帰るだけ、だったのだけど…。

こんなたころで安室に捕まったところで、良いことがあるとは到底思えない。
だから断ろうとしたのだが、黒さも見える圧のある笑顔はどこか綱吉に似ていて。
結局俺は、安室に負けてしまった。



「それでは、どこかでコーヒーでも飲みながらすこしお話しでもしましょう。」

「…はいはい。」



相も変わらず胡散臭い笑顔を無駄に偏差値の高い顔面に貼り付けてはいるが、まあ、たまにはその胡散臭い笑顔に自分から突っ込んでも悪くはない。
前に進む安室に着いて行きながら、無理矢理誘われてるしわりに合わないかはコーヒーでも奢ってもらうか、なんて思っていたときのこと。



「ッ!?」



背中に鋭い視線が突き刺さり、振り返る。
今さら恐怖を感じるわけではないが、あの視線は確かに殺気が含まれていた。

殺気・敵意・警戒…。
そのすべてを含んだ視線を投げ掛けてきたはずの人物など見当たらず、再び安室から名前を呼ばれるまで俺はその場からまったく動けなかった。

さっきの視線…。
あれは偶然乗り合わせていた他マフィアからの視線なのか、もしくは俺が殺した奴の仲間…ファミリーなのか。
それは解らないが、なんにせよ一般人である周りを巻き込むわけにはいかない。

…ちょっと、調べさせてみるか。


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