▼ La tragedia di esplosivi.

雲雀との電話を終えた俺は、足早にアトラクションの列に並んでいた歩美ちゃんたちと合流する。
あんまり遅くなってしまうと、あの目敏い探偵たちが煩そうだったし。



「あともうちょっとで歩美たちの順番だね、雄魔お兄さん!」

「ああうん、そうネ…。」



この子の"あともうちょっと"と言うのはどれほどのものなのだろうか。
どれだけ軽く見積もっても、あと30分はかかるぞ、これ…。

そんなことは言葉にせず、引き攣った笑みで歩美ちゃんに言葉を返す。
無邪気な子どもに現実的なことを言ってやらなかったんだから、引き攣った笑みくらい見逃してやってほしい。

いつ乗れるのかも解らない、ちんたら進む列に嫌気がしてきた頃のことだった。



「………。」



殺意に満ち溢れた視線が、俺の背中に隠すことなく突き刺さる。
それはあの小さな探偵が向けているものでもなければ、沖矢昴が俺に向けているものなんかでもない。

これは、同業(マフィア)からの視線だ。

どこのファミリーからの視線かまでは解らないが、これは確実に、俺に対して向けられている。
まさかこんな子ども騙しな乗り物が集まり、さらにはどこを見渡しても一般人だらけな遊園地という場所にこいつらが来るとは思わなかった。

人を隠すなら人の中。
そうは言っても、俺たちマフィアが一般人に隠れるだなんてただの笑いのネタ。
この馬鹿具合…スパツィオではないな。



「あれ…?ねぇ、あそこに居るのって、目暮警部たちだよね?」

「あ、本当だ…。どうしたんだろう。」

「招待された…と言うわけではなさそうな雰囲気ですね。」



再び歩美ちゃんに繋がれた手を離さないまま視線を気にしていると、蘭ちゃんと仲睦まじく手を繋いでるコナンくんが警察の存在に気付いた。
どうしてこんなところに警察が居るのかは皆目検討もつかないが、何処かの、俺に視線を送っているファミリーが絡んでいる可能性も無くはない。

沖矢昴が言うように、招待されてここへ来た、なんて雰囲気ではなかった。
つまり、何かの事件が起こる可能性がある、と言うことだ。
…まさか、な。



「なあなあ!目暮警部たちのところに行ってみようぜ!」

「ちょっ、ダメよ元太くん。危ないかもしれないんだから。」

「そうそう。折角ここまで並んだんだから、ここで列から離れたりしたらもったいないっしょ。」



その、目暮警部とやらのところに行きたそうに目を輝かせる元太くんを窘めるように注意する蘭ちゃんに便乗して、俺も元太くんの行動を阻止する。
好奇心は猫をも殺す、なんて言うけど、マフィアが絡んでいるかもしれない以上子どもたちの危険が危ぶまれる。

俺としては、なんとしてでも一般人の介入を阻止してやりたい。
警察もどうにかしてやりたいのが本音なのだが、一応一般人である設定の俺が不意に現れたところで、捜査権なんかを譲ってはくれないだろう。
そもそも俺、警察なんかじゃないし。

とにかく、俺はここから一旦離れた方が良さそうだ。
本当に俺に視線を送っているマフィアが絡んでいるのか確かめる必要もあるし。



「………。」



はい無理ー。
歩美ちゃんと手を繋いでいるから、その手を離すために声を掛けようとしたら、その瞬間沖矢昴とコナンくんからちょっとした視線が投げ付けられる。
いや、これ普通に無理だろ。

部下たちが潜伏している場所からここまでは、車で高速に乗って飛ばしたとしても1時間は掛かる(俺、行きの運転を謎にさせられたから確実な情報)。
だから部下たちに頼むには、すこしばかり時間がかかり過ぎてしまう案件だ。

…えー、これどうすりゃいいの。


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