▼ Uno studio di ciascuno.

side.Silver Bullet



うーん、と頭を捻らせてみても、目の前に並べられた情報が少なすぎて結論を出すに出せないこの現状。
赤井さん…もとい昴さんに呼び出されて俺の家に来たのは30分くらい前。

何を言うのかと思ったら、昴さんは最近元太たちのお気に入りである、"如月雄魔"さんのことについて話し出した。



「…これ、本当?」

「はい。我々が追っている、とある組織の人物から、彼は確かに"ボンゴレの死神"だと言われていました。」

「そ、っかあ…。」



目の前にある書類に手を伸ばせば、そこには"ボンゴレファミリー"と書かれたマフィアの情報が書かれてある。

ボンゴレファミリーとは、元はかなり治安の悪かったその地域を守るため、として結成された自警団。
勢力が拡大していき、次第にマフィアとなって他マフィアを制圧しているが、地域への愛情は変わらず、地域住民を大切にしている…らしい。

2枚程度しかないボンゴレファミリーの情報から俺が読み取れるのは、これくらいしかなかった。
昴さんはこれらを見て、もっと読み取ったかもしれない。
だけど俺にもこうやって見せて来た、となったら、昴さんも情報が少なくて煮詰まっている可能性だってある。

恐らくは"彼と親しくしているから気を付けろ"と言う意味なんだろうけど、まあ元太たちが言うことを訊くか…。



「良いマフィア…ってことかな。」

「それは解りません。我々はイタリアの犯罪まで見ているわけではないので、ただのマフィアと言われたらマフィアに良いも悪いもないとしか言えませんね。」

「まあ、そうだよなあ…。」



ボンゴレファミリーは、地域住民を大切にする、元は自警団。
そして、イタリアのマフィア。

これらの情報は、ある意味、俺をモヤモヤから解放してくれた。

雄魔さんはいつも、何かを隠しているような気がしていたから。
それになりより、遺体を見たあとのあの反応…納得出来る。

普通に探偵であれば、目の前で殺人事件が起これば解決しようと動くだろう。
でも雄魔さんはそれをしなかった。
例え仮に事情があって探偵を名ばかりで名乗っていたとしても、それはそれで不可思議な点がある。

雄魔さんは、遺体を見慣れていた。
いや、慣れているかは知らないけど…。
だけど、遺体を見ればそりゃ大人だって気分は悪くなるだろうし、顔から血の気が引いたって仕方がない。
それなのに雄魔さんは顔色ひとつ変えることもなく、俺たちが深く関わろうとすれば仕方なしにと抵抗も無さげに遺体に触れ、興味さえ抱いているようにはとても見えなかった。

それになりより…。
遺体を解析し、犯人を推理…推測しているときの雄魔さんの目は、まさに冷酷そのものを表したような目だった。

それは「酷いことをするものだ」という正義感か、警察組織ではあれど秘密裏で動いているから関われない、と言う昴さんのような人であればそれも有り得るのかと思い、彼には別の警察組織の人間なのかと聞いたことがある。
けれど雄魔さんは一度驚いたもののそれを笑って済まし、違うと否定した。

なら、なんだと言うのか。

そして園子の誘いで向かった遊園地。
そこで爆発事件があって爆発現場に行ったものの、偶然見えた雄魔さんを尾行すれば、辿り着いたのはスーツ姿の人たちに囲まれている雄魔さんの姿。
とてもじゃないが味方に見えなかったけど、雄魔さんが普段着けている指輪が光り、何かの箱にその指輪を刺したような気がした瞬間、姿が消えた。

それから、ベルツリー急行の列車上部から見つかった、不自然過ぎるほんのわずかなルミノール反応。
列車に関わる従業員の誰もが行方不明などにはなっていなかったのに、何故かほんの微かに飛んでしまった飛沫血痕を偶然見付けたことで発覚した事件。

決して許されることではない。
あのとき雄魔さんはひとつも動揺することなく、あの血痕に関して関わっていない、違うのだと否定したけど、でも、雄魔さんがマフィアとするなら…。

辻褄が合う。
納得が、出来るんだ。



「気を付けろ。奴らは何を狙い、何を敵としているのか解っていないからな。」

「…解ってるよ、赤井さん。」



パチ、と変声機のスイッチを押し、昴さんのときの柔らかく、すこし高めの声から赤井さん本人の声に変わる。
昴さんが赤井さんになるときは、だいたい重要な話しをするときだ。

ボンゴレファミリーが何を狙い、何を敵と見てイタリアから日本に来たのか。
黒の組織を壊滅させることを邪魔しないのなら、なんだかんだ言いながらも面倒見が良くて子どもに優しい、あの人であれば見逃しても良いかもしれない、と思ってしまった自分に思わず驚いた。


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