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深緋色
(ふかひいろ)


「えぇぇぇ?!いっいいの!?」
「はい、私に出来ることがあればぜひ。」

近藤さんの不安そうな顔に私が笑めば、反対側では万事屋さんが「出来ることありまくりィ」と声をあげた。

「すまないっ!それじゃ今回は紅涙ちゃんの力を借りるよ。」
「良かったじゃねェか、イイ部下が居て。」
「万事屋!くれぐれも紅涙ちゃんに怪我させたり変なことすんじゃねーぞ!」

言われた当の本人は「煩ェよ」と近藤さんの言葉に耳を掻いた。

「あの、いつからですか?お手伝い。」
「そーだな、今すぐにでも俺は嬉しいんだけど明日の朝に迎え来るわ。」
「別に私も構いませんけど…、」
「いーや、紅涙ちゃんが行けても、面倒なヤツが居るからなァ。」

そう言って万事屋さんは近藤さんを見た。
近藤さんは腕を組んで、唸るように顔をしかめた。

「問題はトシだよなァ〜…、」
「…。」
「トシは万事屋と犬猿の仲だし、とても穏便に話が済むとは思えんからな。」
「…大丈夫…ですよ。」
「紅涙ちゃん?」

私は近藤さんの机を見ながら、ポツリと声を出した。

「話せば…分かってくれると思います。」
「おいおい、随分と深刻な感じじゃねェ?」
「すみません…、万事屋さん。」
「いや、紅涙ちゃんが謝るこたァねーよ。悪いのはどうせ全部野郎だろ。」

万事屋さんの言葉に、私は苦笑いをしてみせた。

悪いのは、
分からない。

土方さんもきっと思ってることはあるだろうし、言えないことがあるんだろうから。

ただこの話は、仕事。
土方さんが書類整理以外の仕事をするのと同じように、私も外で仕事をするだけ。

悶々とそんなことを考えていれば、

「…何だか、」

近藤さんの声がして、私は顔を上げた。

「前にもこんなことがあったな、紅涙ちゃん。」
「…前…、」

あぁ、
異動の時だ。
異動願いを出した時。


『ちゃんと話せば…分かってくれると思います。』


何だか…
成長してないんだな、私って。


「ま、俺ァ明日来るから。とりあえず帰るわ。」
「オゥ!頼んだからな!」

立ち上がった万事屋さんに、近藤さんは片手を上げる。
万事屋さんは後ろ手に手を上げて、部屋を出て行った。

その背中を見送って少し、
離れた場所で大きな声が聞こえる。

「ん?何だ、喧嘩か?」

近藤さんもそれにすぐ聞こえて、私たちは廊下に出た。

離れた場所ではあるが、言い合いをしてるようで。

「ぅわ、ヤベェな。」

近藤さんはすぐに声を出した。


「万事屋、トシと会っちまったか。」


どうやら二人が門の近くでかち合ってしまったようで、取っ組み合いの喧嘩をしている。

近藤さんは「総悟ォォー!!」とその場で大きな声を出した。
自室から沖田さんは顔だけを廊下にひょっこり出す。

「どうしたんですかィ?」
「トシ達を止めてきてやってくれ。ありゃァ原田じゃ無理だろ。」
「面倒臭ェ野郎でさァ〜。」

沖田さんは文句を言いながらも彼らに向かって行った。

わーわーとする二人の間に立って、何やら話をしている。
掴み合いは、お互いに振りほどくかのような形で終わり、万事屋さんは門の外へ出て行った。

その様子を見ながら私が近藤さんに声を掛けた。

「そんなに仲、悪いんですか?」
「ありゃァ悪いってもんじゃねェよ、きっと。」
"面合わせりゃ、決まって小競り合いだ"

近藤さんは乾いた笑い声とともに、頬を掻いた。

「そんな万事屋に紅涙ちゃんが接するとなると、なァ〜。」
"今回ばかりは分かってくれねェかもしれん"

そう言い終えた近藤さんは、心底深い溜め息を零した。

「お妙さんの誕生日会出席権利が…。」

どうやら近藤さんが必死になってたのは、かの愛しい人のためのようで。

「紅涙ちゃん、くれぐれも無理してくれなくていいから。」
"こればっかりは仕方あるまい"

近藤さんは私の両肩を持って、ゆっくりと頷いた。

それに私が顔を横に振った時、


「その話、詳しく聞かせてもらおうじゃねェか。」


後ろで、
土方さんが腕を組んで立っていた。


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