21


白群色
(びゃくぐんいろ)


「どうしたァ、紅涙ちゃん。」
「…。」

日中のせいもあってか、
部屋には万事屋さんしか居なかった。

勤務日以外に来る私を驚いたけど、すぐに中に入れてくれた。

「喧嘩でもしたのか?野郎と。」
「…。」

顔を横に振ると、「ちぇ、つまんねェの」と言ってソファーに寝転がった。

「まァそれでも飲んで、頭に糖分回せよ。」

机の上には万事屋さんが入れてくれたイチゴ牛乳。
言われるがままに、甘いイチゴ牛乳を飲む。

「で?紅涙ちゃんはここに何しに来たの?」
「…何、しに…、」

分からない。
別に万事屋さんに話すつもりなんてなかった。

だけど、
来てしまった。

「頭に…万事屋さんが浮かんで…。」
「そりゃァ嬉しーねェ。」

万事屋さんは満足そうに笑んで座った。
イチゴ牛乳を飲み切って、「俺もさ、」と言った。

「俺も丁度、紅涙ちゃんを考えてたとこだった。」

その言葉に、
どれだけの意味があるのか分からない。

「そ、うですか…、」
「うん、そう。」

意味はないのかもしれない。
薄っぺらい社交辞令かもしれない。

「なァ、紅涙ちゃんさ、」

だけど、
万事屋さんの目に、縛り付けられる。


「泣けよ。」


言葉が、耳に貼りついた。

「その顔、どう見ても泣く寸前じゃねェ?」
「…そんな、こと…、」
「ここ来た時からそんなだったぜ?」

悲しいわけじゃない、
苦しいわけじゃない。

泣きたいわけじゃ、ないのに。

「俺はなーんにも知らねェし、あそこのヤツらとも関係は薄い。泣くのはここしかねェんじゃねーの?」

万事屋さんは自分を指して言う。

「そのために、来たんだろ?」

何でだろう、
固めていたものがボロボロと剥がれて行く気がする。

「ほらよ、」

万事屋さんが私の隣に移動する。
肩を引き寄せるように持たれれば、寄りかかった形になった。

「万事屋銀さんが、助けてやるよ。」
「っ…、」
「ここじゃ紅涙ちゃんは真選組じゃねェんだ。いくらでも弱いとこ見せればいい。」

万事屋さんの胸から声が振動する。


「弱いとこ見せたって、殺されやしねーよ。」


肩を軽く叩かれる。
押し出されるように、ポロりと涙が出た。

一粒流れれば、
次から次へと流れてくる。

「よしよし、辛かったな。」

万事屋さんは、子どもをあやす様に撫でる。
私がメソメソしてる間、万事屋さんはずっと優しかった。


何も知らないのに、

何も聞かなかった。


- 21 -

*前次#