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生成色
(きなりいろ)


「紅涙、行くぞ。」
「はい、」

指定の場所までは、大人数で行くと目立つからということで各自で行くことになっていた。
紅涙の着替えも済んで、俺と門を出る。

すぐそこで、近藤さんと会った。

「近藤さん、あんた幹事だろ?先に行ってねェとマズイんじゃねーか?」
「いやいや、トシ達を案内しようと思ってさ。」
"場所、変わったんだ"

そんなこと携帯で済むことなのに、
なんて頭に浮かんだが、紅涙の言葉ですぐに消えた。

「そう言えば、栗子さんは居ないんですね。」

紅涙が言った通り、見当たらない。
着替えに走ってそのままだ。

珍しいこともあるもんだ、あいつが居ないとは。

「先に行ったんだろ、気にすんな。」

俺は紅涙の気を逸らすように手を引いた。

近藤さんが「じゃー俺も」と言って紅涙の手を掴んだので引き離した。


そんなことばかりをしていたら、


「あーここだここだ。」

近藤さんの声で、紅涙と指差された場所を見た。

そこは、

「うわ〜…、すごい豪華な建物ですねぇ!大きいし!!」
「そうだろ〜?ここは遊郭の中で一二を争う場所なんだ。」

そこは。

「…おい、近藤さん。」
「ん?どうしたトシ?」
「別の場所に…してくれ。」
「土方さん?」

雪華のいる揚屋だった。

「ここは、…駄目だ。」
「おいおいトシ、無理言うなよ〜。とっつぁんが奢ってくれんだから。」
「っ、何だって…?!」

"とっつぁんが奢る"?

ちょっと待て。
どういうことだ、聞いていない!

「え?!松平長官来るんですか?!私久しぶりだなぁ〜っ!」
「いやぁ来るかは分かんないんだけど、そんなことなら奢ってやるって。」
「太っ腹ぁ〜!」
「…駄目だ。」

俺は紅涙の手を強く引いた。
そのせいで、
グラりと紅涙の体が傾く。

「?…土方さん、どうしたんですか?」
「紅涙、帰るぞ。」
「え、ちょっと、土方さん?!」
「おいトシ!!」

無理矢理に紅涙を引っ張って、俺は来た道に体を向ける。

だが、

「トシィ〜、どこ行くつもりだテメェ〜。」

俺たちの前には、
黒いコートを羽織ったとっつぁんが立っていて。

「まっ松平長官?!」
「お〜ぅ紅涙ちゃん久しぶりじゃねーか。」
「名前、覚えてくださってたんですか?!」
「当たり前ェだろ〜。可愛い可愛い紅一点なんだからよォ〜、なァトシ?」
「っ…、」

どうして。
どうしてこんなことをする…!

「どこ行こうってんだァ?トシ。」
「どっどこでもないですよね、土方さん!」

隣で紅涙が俺の腕を揺らす。

とっつぁんが俺たちに向かって歩いてくる。
紅涙は小声で必死に「早く行きましょう!」と言った。

「まさかトシィ〜、お前帰ろうとしてんじゃねェよな〜?」
「…。」

とっつぁんが近づく。

恐いのだろう、
紅涙は俺の手をギュっと握り締める。

とっつぁんは俺の横を通り過ぎるその時に、


「大切なもん、失くしてェのかお前は。」


ボソりとそう言った。
紅涙も僅かに聞こえていたようで、「今何て言ってたんですか?!」と心配そうに聞く。

「ほら行くぞォォ〜、」

とっつぁんの声が後ろでして、
近藤さんが「早く来いよお前らァァ!」と言った。

「ねぇ土方さん!さっき松平長官は」
「大丈夫だ、」
「…土方さん…?」

俺は空いた方の手で紅涙を撫でた。

ここで、決まる。
直感的に、そう感じた。

とっつぁんは、この場で判断するつもりだ。

ここで終わる。


「気にすんな。」


お前を、手放したりしねェ。


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