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お子様セット


「なるほど!それで朝は一緒に登校してるわけかァ!」

いつものお昼休み。
ブリックパックを握って、私は近藤君に「う、うん」と控えめに頷いた。

「まさか週末明けでこうなってるとは驚いたよ!」
「は、はは。私も…驚いた。」
「でも俺ァ安心した!紅涙ちゃんがやっと鞘に収まってくれてな!」
"なァ?トシ"

近藤君は私の隣にいるトシの背中を叩いた。
パンに齧り付いていたトシは、ゲホッと咽て「何が鞘だ」と言った。

「俺ァ面白くねェでさァ。何で合コン行ったのに土方さんと付き合ってるんですかィ?」
「い、いや、それは色々とありまして…。」
「俺ァせっかく紅涙が捕まえてきた男のツテを頼って、雌豚探しをと」
「お、沖田君、お口が少々調子悪いようですけど。」

苦笑して言えば、
沖田君は「絶好調でさァ」と口笛を吹いて見せた。

「こうなりゃァ、土方さんの方の合コンに期待するしかねェですねィ。」
「お前を呼んだ記憶はねェぞ。」
「何を言うんですかィ、土方さん。俺と土方さんの仲じゃねーですかィ。あんなこともこんなこともした仲じゃ」
「どんな仲だよ!」
「…。」

そう。
トシが参加するという合コン。

土曜日の時点では、
日曜日に開催される予定だったが、どうも予定が変更になったらしく月曜日の今日になったのだ。

「…。」
「お、おい、紅涙。話はついただろーが。そんな顔すんな。」
「別に…。許したつもりはないですけど。」
「あーあ。もう別れますぜ、近藤さん。これは俺が狙っていいっつー前振りでしょうかねィ。」
「こらこら総悟。お前は話をややこしくするから黙っとけ。」

わざとらしく、トシは私に「ん」とパンを差し出してきた。

「お前これ好きだろ?ほら、食え。」
「…いらない!」

なんだ、この男は!
物で釣れると思っているのかバカモノ!!

「で、土方さん。今日はどこでやるんですかィ?」
「総悟ぉ、黙っとけって言ってるのに…。」
「近藤さんは分かってやせんねィ。ここは紅涙の口に変わって、俺が言ってやらなきゃなんねェんでさァ。」
「そ、そういうものなのか…。」

沖田君は「で?」とトシに聞く。
トシは私の顔色を窺うように見てきたので、フンと逸らしてやった。

小さい溜め息が聞こえて、

「食堂。」

そう言った。

しょ、食堂?

「食堂って何ですかィ?」
「食堂は食堂だろーが。そこにある学食だ。」

え。
学食で…合コン?

「トシ、誤魔化すならもう少しマシな嘘をだな、」
「嘘じゃねェよ!俺の行く合コンはこの学校のヤツ。学内合コン。」
「な、何それ…。」

思わず私の声が出た。
なんと身内の合コンなんだ…っ!

いや…、
だが確かに学内全ての人の顔をしってるわけじゃない。
憧れの人と近づくなら、とてつもなくいいチャンスになるに違いない…。

トシは私を見て「お前の知ってるヤツも居んじゃねェの?」とあっけらかんと言う。

「少なくとも心配するようなもんじゃねェよ。お前が行ったみてェなな。」
「なっ、」
「トシ〜、お前はまた一言多いィ〜。」

近藤君が仲介に入ってくれて、私は声を荒げずに済んだ。

あぁもう!
近藤君の方がよっぽど女心を分かってる!

「…分かった、」
「おぉっ?!紅涙ちゃん物分かり良いねェ!」
「私も行く!」
「あ、あれ?」

近藤君は頬を掻く。
その横でポカンとするトシに、私は「合コン!」と言った。

「はァァ?!何言ってんだよ、お前。」
「女の子側で私も入れてもらう!」

「ハハ。それはズルイよ、早雨さん。」
「だって私はっ…、…て山崎君?」

振り返れば、
一度も話したことのない山崎君が立っていた。

彼は「俺のこと知ってたんだ」と笑った。

「山崎、俺は途中で帰るからな。」
「えっ、山崎君も行くの?!」
「聞いてやせんねィ、山崎ィ。」

山崎君は苦笑して頭を掻いた。
沖田君は何やら尖った物を山崎君の脇腹に突き付けて、ボソボソと耳打ちをする。

山崎君は「分かりましたから!」と言って沖田君を宥め、「っと言うか!」とトシに向き直した。

「先帰るのはマズイっすよ〜!9割近くが土方さん目的なんスから。それにミツ」
「ばっお前、そういうことはコイツの前で言うな!」

二人して恐る恐る私を見る。
私は溜め息をついて「やっぱり」と呟いた。

「トシ、」
「な、なんだ。」
「トシがモテるのは知ってる。」
「あ、あぁ。…いや、別にそんなことは…、」
「そんなことあるの!みんな少しでもいいから近付きたいって思ってるの!」

このニブチンめ!
こんな温い態度だから、みんな平気でトシを合コンへ連れて行けるんだ!

「トシ。」
「は、はい?」
「トシが好きなのは誰?」
「あァ?!そ、それは、だな、その…、」
「誰?」
「…っ、分かってんだろォが。」

トシが頬を赤くして私を睨む。
私はそれに「分かんなぁい」と顔を背けた。

「〜っ!!」

ガタッと音が鳴る。
近藤君が「あちゃー」と言った。

この「あちゃー」の理由。

トシは怒ると席を立つからだ。
「もぅいい」とか言って、その場からいなくなる。
本人いはく、"冷静になるため"らしいけど。

つまりは、
トシを怒らせたってこと。

「…。」
「まぁまぁトシ、座れって。」

「チッ、面倒なことしてくれるじゃありやせんか山崎。責任取れ。」
「えっ俺ェ?!」
「そうだな、山崎。お前が余計なことをトシに言わなけりゃこんなことには…。」
「えっ俺ェェ?!近藤さんまで!」

ごめん、山崎君。
私が怒らせたんだから、私が謝ればいいんだ。

だけど無理。
謝らない!
ここで怒る意味が分かんないから。

「…。」
「…。」

私はトシに顔を背けたまま。
トシは黙って立ち上がったまま。

早くいつもみたいに教室から出ていけばいいのに!

と思った時、

「っ!!」

トシが私の手首を掴んだ。

まさかの行動で、
私の心臓はビクリと跳ねる。

「な、何?!」
「…紅涙。」
「だから、何?」

可愛くない態度は承知。
トシは大して顔色も変えず「だから、」と言った。


「だから、紅涙。」


だから、私?

「お前が聞いたんだろーが。」

あぁ…、

『トシが好きなのは誰?』

その答えか。

「ふふ、」
「何笑ってやがるっ!」
「うぅん、別に。」

可愛くないのは、お互い様だね。


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