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毒りんご


問題の放課後が近づくにつれ、合コンの話を耳にするようになった。

「えー?!マジ?!超レベル高いじゃん!」
「でしょ〜?!絶対私捕まえる!!」

どうやら私のクラスの子も参加するようで。

私もあんなだったなぁ…、
なんてお高くとまったりしては、
トシは何を考えてるんだ!
なんてイラだったりと、忙しい思いをした。


そして、
問題の放課後。

「紅涙。」

HRが終わった時、トシが廊下から呼んだ。

何だろ、
もしかして怒ってるか確認しに来たとか?

それだったら怒ってやる!
怒ってない?とか言われるほど怒れるものなんだぞ!!

「…何?」
「…お前ってヤツは…、」

あからさまに構えて出た私は、何を言わずとも怒っていて。

トシはそれを見て溜め息を吐いてみせた。

「合コン、遅れるんじゃないの?」
「この後すぐ行く。」
「…そ。」

自分でふっといて、
「やっぱり行くんだ」なんて分かると腹が立つ。

小さいな、私。

「せいぜい楽しんで来て」とその場を去ろうとすれば、「ちょっと待て」と止められる。

「帰り、待ってろよ。」
「…え。」

帰り?
帰りを、待ってろって…、

「トシ、合コン行くんでしょ?」
「あァ。」
「なのに…私、待ってるの…?」
「すぐに切り上げて帰る。」

何それ。

一緒に居たいって思ってくれるのは、嬉しいよ?

すごく嬉しいけど、
でもこれって、すごいつまんない。
すごい寂しいじゃん。

それにそんなの、
出来るわけないでしょう?

「トシ、それは無理。」
「何がだよ。」
「空気読めないと嫌われるよ?」

今度は私が溜め息をついた。

「大丈夫、別に合コンぐらい平気だし。」

うそ。
嫌だよ、ほんとは。

「他の子のこと考えたら、彼女出来た方が空気読めてないぐらいだろうしね。」

ほんと。
こんなタイミングでかよって、私なら思うかも。

「だから楽しんで来てよ、先に帰ってるから。」

ニコっと笑って、トシの肩を軽く叩いた。
それとは逆に、トシのムっとした顔。

「待ってろっつってんだろーが。」
「だから無理だって。」
「無理じゃねェ。」

聞き分けないなぁ、もう。

「はぁぁぁ…。」
「溜め息で誤魔化してんじゃねェよ。」
「分かった分かった、待ってる。」

そこまで言うなら、待ってるよ。
暗ぁぁい教室に一人で座って待っててやる。

それを見て、
「あぁ俺すごい酷いことしたな」って思い知るがいいわ!

「これ、預かっとけ。」

トシのカバンをグイっと押しつけられる。
両手で抱えたそのカバンには、携帯電話も見えた。

「ね、携帯は持っていった方がいいんじゃないの?」

さすがに手ぶらで行くのはどうよ。

なのにトシは「いらねェ」と言う。

「持ってたら面倒だろーが。」

私を見て、片眉を上げて見せた。

「いいか、紅涙。俺は携帯を持って行かねェ。」
「う、うん。そうみたいだね。」
「自分の番号も覚えちゃいねェ。」
「へ、へぇ…。2年も持ってるのにスゴイねぇ。」

私の相槌に「煩ェ!」と頭を小突いてきた。

「分かんねェヤツだな、お前は!」

な、何が?!

ポカンとしていれば、「ったく!」と頭を掻く。


「これでお前が心配する要因はなくなっただろって言ってんだよ!」


あ。

「なるほど…。」

携帯を持っていないトシは、
番号も覚えてないわけだから、誰かに教えることはないってことか。

つまりは、
私みたいに"何か"を持って帰ってきたりしないってことか。

「ほんと鈍いな、紅涙。」
「しっ失礼な!トシが遠回り過ぎるだけでしょ!?」
「あァ?!お前っ、俺のせいにするってのかよ!」
「どう考えてもそうでしょーが!!」
「ンだとコラァァァ!!」

またいつものようにギャーギャー言い合っていれば、右の方からクスクスと笑い声が聞こえた。


「本当に仲が良いのね。」


その声に、顔を向ける。

「…?」
「早雨さん、よね?」
「は、い…。そうですけど。」

色素の薄い髪。
色の白い肌。

まるでお姫様のようなその女の子は、大きな眼を細めて笑んだ。

「私、十四郎さんと同じクラスの沖田と言います。」

沖田…?

あ!

「もしかして沖田君のお姉さん!?」
「えぇ。いつも総ちゃんと仲良くしてくれてありがとう。」

沖田君、
同じクラスに双子の姉がいるって言ってたっけ。

へぇぇ…そっくりだ。
沖田君、黙ってたら可愛い顔してるもんなぁ。

でも…、

「沖田さん、はじめまして…、だよね?」
「そうね。はじめまして、紅涙さん。」

毎日お昼休みに行ってるクラスなのに、
顔、全然知らなかったな。

それが伝わったのか、
沖田さんは小さく笑って「私、」と言った。

「身体が弱くて、あまり登校出来てないから。」
「そう、なんだ…。」

これまた知らなかった。
沖田君、話さないもんなぁ…。

「十四郎さん、そろそろ行かないと。」
「あ、あぁ。」

返事をしたトシに顔を向ければ、「待ってろよ」と念を押さえれる。

もしかして。

「もしかして、沖田さんも…合コン?」
「うん。休みがちだからって気を利かせてくれて。」
「合コンっつってるけど、主役はコイツなんだよ。」
"少しでも学校を楽しめるようにってな"

トシが淡々と話す。
それを見ながら、私の頭には一つの疑問が浮かんだ。

どうして、
どうしてトシはそれを言わなかったんだろう。

合コンなんて引っかかる言い方より、
初めから沖田さんのためだって言えば良かったのに。

どうして、
言わなかったんだろう。

「じゃぁまたね、早雨さん。」
「う、うん、またね。」
「絶対ェ帰るなよ。」
「もうっ、分かってるよ!」

そして。

二人は何か話しながら歩いて行った。
たまに沖田さんがクスクスと上品に笑う。

どんな話、してるのかな。

何だか二人、仲良いな…。

少し寂しくなったのは、
きっと、私が小さいせいだ。


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