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恋詰カバン


自分のカバンを持って、
トシのカバンを持った。

自分の教室から出て、Z組へ向かう。

少しでも、
待ってるのがつまんなくないように。

「トシ、机に落書きとかしてないかなぁ。」

机の中とかに、面白いものないかな。
トシの秘密とか、ないかな。

「ふふ、探りまくってやる。」

暇潰しには丁度いい。
と思っていたけど、


「紅涙、何してるんですかィ?」
「あれ?沖田君、部活は?」
「今日は休みでさァ。」

丁度、Z組の前で沖田君と会った。

「で、紅涙は何してるんですかィ?」
「あーえっと、トシ待ち。」

苦笑して答えれば、
沖田君はジィっと私を見て、細い溜め息を吐いた。

「馬鹿でさァ、紅涙。」
「なっ?!いきなり何?!」
「待ってろっつって待ってるなんて犬でも出来まさァよ。」
「ど、どういう意味よ…。」

沖田君は私が持っているトシのカバンを取り上げた。
そしてズイっと寄って、神妙な顔をする。

「紅涙、俺には姉が居る。」
「え、あっ知ってる!さっき会った!!」

私が喜び気味に指を差せば、沖田君が口の端をニヤりとさせた。

「姉さんは滅多に学校へ来れないんでさァ。」
「うん、身体が弱いって言ってた。」
「ただでさえ可愛くて優しいのに、身体が弱いことで余計に守ってやりたくなる姉さん。」
「沖田君、シスコンだったんだね…。」

何が言いたいのか分からないけど。
沖田君は「黙りやがれ」と言って、私の頬を抓った。

「その姉さんが、登校する一番の楽しみが何か教えてやりやしょう。」
「べ、別に必要ないけど…。」
「俺が一番気に食わない、姉さんの一番の楽しみ。」
「聞いてないよね、沖田君…。」

顔を引きつらせていれば、沖田君は「それは」と続けた。


「土方さんですぜィ。」


…。

「トシ…?」
「姉さんは、土方さんが好きなんでさァ。」
「…、へ、へぇ…。」

そうなんだ…、
そうなんだぁ…。

「ま、まぁモテるしねぇトシ。」
「野郎には告り済みでさァ。」
「え?!」
「紅涙と引っ付くず〜〜〜っと前に。」
「えぇぇぇ?!」

い、いや待て待て。
そういう子もいるよね。
きっとトシは私の知らないとこで、いろんな子に告白されてる。

沖田さんに、限らず。

「今日の合コン。おかしいと思いやせんでしたかィ?」
「ど、どの辺が?」
「山崎が幹事。あの地味ィな山崎が幹事ですぜ?」

沖田君は「アイツが主催するわけねェ」と言った。

「だから山崎に聞いたんでさァ。そしたらペロッと吐きやがった。」
「何をっ?!」
「姉さん。姉さんが裏番でさァ。」
「ううう裏番?!懐かしっ!」

深刻な顔をして、沖田君はコクりと頷いた。


「姉さんが野郎と時間を作るために、わざわざ合コンなんて企画したんだってよ。」


沖田君が言うには。

告白は、叶わなくて。
だけどトシはあんなだから、
沖田さんが告白をした後、意識してか距離を置いたらしい。

そのせいで、
トシとろくに話せなくなったと。

「伝わらなくたって、好きなもんは簡単に変わりやせん。」
「…うん。」
「大勢で、かつ二人の時間が持てる合コン。姉さんはそれを狙ったんでさァ。」
「そうだったんだ…。」

沖田さんの気持ちは、分かる。
誰かを好きになったことがあるなら、きっと分かる。

「好き」って言って、叶わなくて。
それで恋が終わるわけなくて。

だけど、
元に戻るのも、難しくて。

私はそれを恐れて、
踏み出せずにいたんだもの。

沖田さんは私より何倍も、先にいる。

「…、」
「勘違いするんじゃありやせんぜ、紅涙。」
「え…?」
「俺ァ別に同情してほしくて言ったんじゃねェ。」

沖田君は、
トシのカバンを肩に担いで背を向けた。

「行きますぜ、紅涙。」
「…、どこに?」

少しだけ振り返り、
「決まってまさァ」と言って、


「合コン、ぶっ潰しに。」


口の端を、歪ませた。


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