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人見知り水


「よし、15分前!」

待ち合わせに指定された駅は、来たことのない離れた場所だった。

通ったことがあっても、降りる用事のない駅。

なんでも、
向こうの人達の学校がこの辺りらしい。

「まだ来てないのかなぁ。」

改札を出て、周りを見渡しても、
友達も、それらしい年齢の待ち人もいない。

携帯を取り出して友達に連絡しようと思った時、「あ!揃ったねぇ!」と友達の声がした。

「ごめんごめん、早く来過ぎちゃってコンビニ寄ってたの。」
「そっか!ん、向こうの人はまだ?」
「うぅん、あっちとはここで待ち合わせじゃないんだ。」
"直接、居酒屋集合"

合コンをセッティングした幹事の子と、私と同じように参加した子。
つまりは、3対3。

幹事役は「それじゃ行こっか!」と軽い足取りで歩く。

私たちもそれに付いて行き、
あっと言う間に居酒屋に着いた。


靴を脱いで、
少し暗い店内を進んで、
先に歩いていた幹事の子が「お待たせ!」と言う。

そこに座っていたのは、

「いやいや、待っていませんよ僕たちは。」

とっても好きになれそうにない第一印象な人と、

「拙者たちも、ついさっき来たとこでござるよ。」

暗い店内でも紺色のグラサンを掛けているロックな人と、

「…。」

何も言わず、水を飲んだ恐そうな人。
この人、絶対人見知りだ。

「それじゃとりあえず紅涙から奥に座って。」
「あ、う、うん。」

掘りごたつの段差を下りて、「よいしょ」と座る。

何やら視線に気づいて目を上げれば、向かいの席に座っている恐そうな人と視線が絡んだ。

「…。」
「…。」

な、なんだろ。威圧感が半端ない。
とりあえず愛想笑いをすると、目を逸らされた。

ヒドイ!

「じゃ早速自己紹介からねー!」

幹事役が「男の方からお願い」と言い、彼女の前に座っていた人が「では僕から」と小さく挙手した。

挙手とか…。
も、ごめんなさい。
その顔だと、何をしても耐える自信がないです。

「僕は武市です。」
「こんな場で名字はないでしょ〜。名前で行こうよ。」

幹事役と、私の隣に座る子が笑う。
コホンと咳払いをして、武市さんは「僕は名前があまり好きじゃないので」と小声で言った。

「え〜、勿体ぶられたら余計に気になるよ〜。」

隣の子が言っても、「いや、しかしだね」とゴニョゴニョする。

それも、
恥ずかしそうに、少し上目遣いでこちらを見ながら。

ヒィィィ気持ち悪い!
あぁ武市さん、
初対面なのに、本当にごめんなさい。

そんな言いたくない素振りを崩さないので、諦めて次に移ろうとした時、


「変平太。」


ポツりと声が響いた。
それを言ったのは、私の前に座る人。

武市さんも、
真ん中の彼も、
みんな目を向けてるのに、彼は素知らぬ顔でグラスに入っていた水を一口飲んだ。

「へ、へんぺいた…さん?」

えぇぇぇぇ何その名前!

やばっ、ウケる!
笑うな紅涙!
人の名前を笑うなんて最低だ!!

プルプルと手を震わせ、
私が水を持った時、幹事役が顔を引き攣らせながら「やっやだぁ」と声を上げた。

「紅涙!"さん"なんて、みんな同じ歳なんだから"君"でしょ〜?」
「そ、そうだよね。お、同じ、歳なんだよね…。」

その顔で同じ歳ぃぃぃ?!

もぅダメ!
こんなのネタじゃん!
その目とか、絶対書いてるよね!

トシがいたら言ってるだろーなぁ…。

あ。
…しまった。
考えない考えない。

「じ、じゃぁ次!次の河上君、お願い。」
「拙者は万斉でござる。鬼兵隊というバンドを組んでいる。」
「そうそう!それで知り合って、合コンしようってことになったの。」

幹事役が万斉君と知り合いだったのか。
へぇ、バンドねぇ。

「そのバンドに誘っても、全くノってくれないのが晋助でござるよ。」

そう言って、万斉君は隣の人見知りの人を見た。
彼は特に何も言わず、また水を飲む。

「あ…もしかして無理矢理来てもらった系…?」

幹事役が恐る恐る万斉君に聞くと、「いや」と顔を横に振った。

「晋助はこんなヤツでござる。気にしなくてもいい。」

ほーら、やっぱり人見知りだ。
薄暗いし、少し離れてるからよく分からないけど、綺麗な顔してそうなのに。

「じゃぁ私たちの番ね。」

幹事役から順に、名前を言って行く。

とどこおりなく済んで、微妙な緊張から解放されて小さく溜め息を吐けば「お前、」と声が聞こえた。

「ん?」

顔を上げれば、それは向かいの晋助君で。

「何か言った…?」
「あァ。」
「な、何…?」

彼は私の顔をジッと見て。


「お前、人見知りだろ。」


お前にだけは言われたくねーよ!


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