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Vingt


「890円になります。」

予想以上に種類のある検査薬の中から、適当なものを買う。

店の外に出て、
それだけが入った小さな袋を見た。

屯所に戻って、これをやって。
それから判定を、見るわけで。

「…。」

しなきゃいけないけど、
後回しにしたい。

こんな風になったのは、
私の責任でもあるのに。

「…、…はぁ…。」

無意識に溜め息が出てしまった。

「あの、よ。」

ずっと一緒にいてくれた土方さんが、遠慮がちに言う。

「別に…言わなくていい、から。」
「…え?」

首を傾げれば、
手持無沙汰そうにして「その、」と目を逸らす。

そう言えば土方さん、
煙草吸ってないな。

…"もしかしたら"の私のため?

「別に検査結果…言いに来なくてもいいから、よ。」

土方さん…?

「いや、気には…なる。だが、お前が言いたくないならいい。」
「…。」
「付き添ったのは、そういう意味じゃねーし。お前が隠したいことなら…それでいいから。」

そうだ、
土方さんは、何も聞いてきてない。

私がどうしてこうなったか、
どうしてこれだけ受け入れられないのか。

なのに全部知ってるみたいに、受け入れてくれる。

…どうして?

「…土方さん、」
「ん?」
「どうして…、…優しくしてくれるんですか。」

足を止めて、土方さんを見る。

不甲斐ない私を、
責めもせず、
"ずっと一緒にいる"って言ってくれた。

こんな状況なのに、
私はどんどん土方さんを好きになっていく。

「どうして、ですか。」
「…紅涙、お前…、」
「はい、」

土方さんは呆気に取られたような顔をした。

「お前…あの時、本当に聞いてなかったのか?」
「"あの時"…?」
「…。」

一瞬の沈黙の後、

「はぁぁぁぁ…、お前なぁ…。」

盛大に溜め息をつき、肩を落とした。

「え、な何ですか!?」

私、何かしたの?!

「…、まァいいか。」
「え?」

土方さんは小さく頷いて、「俺は」と言った。

「俺はな、」
「はい。」
「俺は…、…。」

そこまで言うと、黙ってしまった。

「土方さん?」
「…。」

目線を下げて、何か考えているような顔。

少しして私を見た時には、
いつものイジメっこのような目つきになっていた。

そしてフンと鼻で笑って、


「俺が神様みてェな男だから。」


そう言った。

「か、神様?!」
「そ。俺はもう神の領域に居んだよ。」
「へ?!」

何?!
何の話?!

解読に困っていると、土方さんは私の頭を軽く叩いた。

「まァそういう訳だから、お前はお前のこと考えてろ。」
「ひ、土方さん、全然分かんないんですけど…。」
「だから分かんねェでいいんだよ。分かりにくく言ってんだから。」

そうしてまた小さく笑う。
その時の土方さんは、本当に優しい顔で。

「また今度、分かりやすく言ってやるよ。」

私の胸を、締め付けた。


それから屯所に戻って、土方さんと別れる。
一度自室に戻って、買って来た物を開けた。

「…恐い、な。」

物を見ると、より現実を感じる。
説明書には太く赤い字で注意書きがあった。

"判定が陽性であれば妊娠している可能性がありますが、
正常な妊娠かどうかまで判別できませんのでできるだけ早く医師の診断を受けてください"

「そ、だよね…。」

でも最近のは100%近い確率って…。

ううん、
とにかく。
やらないと始まらない。

「考えるのは…、あとだ。」

私はそれを手に隠し持って、
ようやく、検査をした。

そいて判定は、


「…うそ。」


陽性だった。


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