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Vingt-deux


銀さんはコンビニ帰りのようで、手に持つ袋はジャンプが透けている。

「ぎ、銀さん…、」

何を言えばいいのか、言葉が出てこない。

この場所。
この二人。

私の抱えていること全部。

全部が…、揃ってる。

「何だよ、紅涙ちゃん病気?」
「あ…あの、ね…、銀さん…、」

銀さんが、病院を見て私を見る。

その時、


「万事屋ァァァァ!!!」


けたたましいほどの怒声。

状況を飲み込めた頃には既に、
隣に居たはずの土方さんが、銀さんの頬を思いっきり殴り飛ばした後だった。

頬を押さえながら、銀さんは土方さんを睨む。

「ッ!て、めェェ!どういうつもりだ!!」

それと同じぐらい鋭い眼で、
土方さんは「こっちのセリフだ!」と声を挙げた。

「はァァ?!何コイツ!言いがかりにも程が」
「少しでもお前を信じた俺が馬鹿だった!」
「ちょ、ちょっと土方さん!待ってください!」

ようやく私は、
また殴りかかろうとする土方さんの腕を掴んだ。

「私っ、まだ話してないんです!」

その言葉に、銀さんが首を傾げた。

「誰にも…言えてなくて…っ、土方さんにしか…まだ…。」
"ごめんなさい"

俯いた時、
「悪かった」と言った土方さんが抱き締めてくれた。

銀さんが居るその前で。

「お前が謝ることはねェよ。」
「ひっ土方さん!は、離れて頂けると」
「万事屋、」

土方さんは私の話も聞かず、

「てめぇがどう言おうが、」

そのまま銀さんを見据える。
そして、


「紅涙の腹の子は、俺が育てる。」


さらに私を抱え込むようにして言った。

…え、

「えェェ?!」

そう声にしたのは、私よりも銀さんの方が早くて。

「ちょ、ちょっと待てって!何、その話?!」

当然、銀さんは驚いた。

「なな何?紅涙ちゃん…妊娠してんの!?」
「まっまだ…正確には…。」

私は土方さんの腕の中から出る。
土方さんは「それを調べに来たから病院の前に居るんだろーが」と言った。

「マヂかよ…、そっか、そうなのか…。」

銀さんは小声でそう言って、「で?」と続けた。

「いつからだよ、大串君。」
「はァ?」
「お前らのことだよ。」
「ぎ、銀さん?」
「紅涙ちゃんも酷いよなァ、大串君とそういう仲なら言ってくれりゃいいのに。」

"俺だって諦める努力ぐらいするっつーの"

そう言う銀さんと、私たちの話がかみ合っていない。

おかしいと感じた土方さんは声を掛ける。

「お前、勘違いしてねェか?」
「はァ?何が。」
「そもそも俺の子なら、てめぇを殴ったりしねェだろーが。」
「あーそっか。…、…え。」

"えェェェェェェ?!!"

ようやく理解した銀さんは、先ほどよりも大きな声で驚いた。

「おおおおお俺の子ォォ?!」
「ほんと頭悪ィ。絶対に俺が育てる。」

土方さんは「いいな、紅涙」と私に言う。

そ、そんなこと、言われても…。


「いや、ちょっとストーップ!!」


そこに、大きな銀さんの声。
片方の手の平をこちらに向けている。

「い、いつの子かな…、紅涙ちゃん。」

その質問に、私よりも先に土方さんが言う。

「あの夜だボケ。」
"それとも他にも思い当たることしてんのか"

そう言って、
土方さんは私と銀さんを見た。

私は「ないですよ!」と慌てて言って、銀さんは「ないない!」と手を振った。

「ああああの夜って、ドンペリドンドンの日だよな。」
「そうだ。」
「お前が先に帰った日だよな。」
「そうだっつってんだろーが。」

銀さんは「いやあの日は」と考えながら何かブツブツと言っている。

それを見た土方さんが「テメェ…」と声を震わせた。

「無責任なことした上に、まだ責任逃れするつもりかお前は…。」

唸るように言う。
それに向かって、「まァ待て!」と銀さんは言った。

だけど土方さんは「待てじゃねェ!」と怒鳴る。

「ここに来るまで紅涙がどれだけ悩んだと思ってんだ!」
「ひっ土方さん…、」
「コイツがどれだけ苦しんで…、泣いたと思ってんだ!」

私は土方さんの腕を引っ張る。

「わ、私が悪いんです。」
「紅涙…、」
「私が…誰にも言わなくて…、銀さんにすら…ずっと言えなかったから…。」

"ごめんなさい"

頭を下げる。
その頭を、何も言わずぐしゃぐしゃと撫でた。

頭の上では、銀さんが「紅涙ちゃん…」と呟いた。

「謝るのは…俺だ。」

銀さんの声に、顔を上げた。


「すまねェ!紅涙ちゃん!!」


アスファルトの上に、銀さんが土下座した。

「ぎ、銀さん…、」
「まさかここまでデケェ話になるとは…。」
「当たり前ェだろーが!!」

苛立った土方さんが「殴るだけじゃ足りねェ!」と歯をギリッと鳴らした。

「そうだよな、早く嘘だって言えば良かったんだよな。」
"ごめんな、紅涙ちゃん"

んん…?

「"嘘"って…何の話ですか?」

話が…またかみ合ってない?

銀さんは、
むしろ理解できない私たちが不思議な様子で、


「へ?俺たち、あの夜ヤッてねェよ?」
"何もなかったぜ?"


そう言った。


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