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盲目
私、…戻ってる?
一瞬、
嫌な感じが襲った。
もしかして、
また私は一時的なものだった?
人の姿に、なれない…?
「っ、…あれ?」
そう思ったけど、
いつものように人の姿になれた。
「…良かった、」
あの時、眠かったからかな。
無意識に戻ることなんてなかったけど、そんなこともあるよね。
自分の手を見ながら、
開いたり、握り締めたりしていると、
「起きたのか。」
その声に、身体がビクりと揺れた。
「あっ…、土方様…、」
「何驚いてんだよ。」
土方様は笑い、「飯食ってきた」と言って座った。
「よ、良かったです、土方様で…。」
今、
私…分からなかった。
誰かが近づく気配。
こんなんじゃ…いつ他の人に見られるか。
「しっかり…しなきゃ…。」
眠いのも、
気が張れてないのも、この生活に甘えてるからだ。
幸せだからって、
他のことを疎かにしてる。
「お前、また余計なこと考えてんだろ。」
顔を上げると、
土方様が細い目をして私を見ていた。
「よ…余計なことでは…、」
「あんま考えんな。」
傍にあった灰皿を近くに寄せて、
「お前は、ここに居ればいいんだ。」
こちらを見ず、
だけど重い声で。
「俺が、守ってやるから。」
土方様…。
「これからは、俺がお前を守るから。」
私は、
…私は…、
「何も、心配すんなよ。」
私は。
「…土方様…っ、」
「何泣いてんだよ。」
やっぱり、幸せ者で。
「…っ、嬉しくて…っ、苦しいです、」
他のことが疎かになるほど、
幸せで。
「土方様にっ…、出逢えて良かったっ、」
妖刀の私が、
どんな形であれ、
あなたに出逢えて良かった。
「…あぁ。」
土方様は優しく笑う。
「俺も、お前に出逢えてよかった。」
その胸に、抱きついた。
「…土方様っ…」
まだ陽も高いのに、
いつ誰が来るか分からないのに。
見つかってもいい。
そう、
思える自分がいたから。
「紅涙…、近藤さんに会わないか…?」
"ここで、ちゃんと生活しよう"
その言葉を、
今度は嬉しく、受け入れることができた。
土方様は、
近藤さんにだけ、私を紹介すると言った。
妖刀であることを伏せて。
「そのことは必要ないし、地獄耳がいるからな。」
「ふふ、総悟さんですか?」
「まァな。」
私を一人の人として、
大切な人として、紹介してくれると言った。
「た、"大切な人"…っ!」
「繰り返すな恥ずかしい。…まぁ近藤さんには、な。」
「はっはい!」
「それと、ここで手伝いをさせてもらうように言う。」
「"手伝い"…?」
「女中の手伝い。そうすれば、俺の部屋に出入りしても他の隊士の目につかない。」
手伝い…。
「嫌か?」
「いっ嫌じゃありません!でも…私が出来るのかなって…、」
「出来なくてもいいさ。余程だったら俺の小姓にするから。」
土方様は、
ずっと考えてくれてたんだ。
私がここで生活するための方法。
ずっと。
…ずっと。
「…頑張ります、私!」
土方様は、私を見て小さく笑った。
「そうだな、頑張ってくれ。」
"俺も、頑張る"
私たちは早速、
近藤さんの部屋に向かうことになった。
その部屋へ向かうまでの廊下。
身体の中は、
新しいことが始まる期待と不安。
それだけでいっぱいだったのに、
「トシ!このままじゃお前は潰れるんだぞ!?」
思ってもみなかったことが、
私を待っていた。
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