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神々の。


地図に書かれていた場所。
よくある、古い倉庫。

「見張りも居ねェのか。」

その重い扉を開ける。

倉庫の中は恐ろしいほど暗く、
こちら側が月明かりで眩しく感じるほどだった。

暗さに比例して、
静かなのかと思えばいくつもの声が聞こえた。

(何人居るんだ…?)

頭の隅で、
紅涙の声を探しながら、

耳を澄ませて息を呑む。

「いいから飲め。」
「っ、」

直後に聞こえるガラス音。
カランと軽い何かが転がった音。

「テメェ…、」
「せっかく気に入られた貴重な存在だと言うのに…。」
"本当に馬鹿な女でござる"

また金属音が聞こえて。

今度は、


「やめてっ!!」


女の声がした。

その声が耳に届いた時には、
俺の足は勝手に動き出し、
探るまでもなく、ヤツらの前に辿り着いた。

「触んじゃねェ!!」

大声で叫んだ俺の目に飛び込んできたのは、

「…万斉、何をやらかした?」

女物ような着物を着る片目の男と、

「拙者は何も。」

サングラスとヘッドホンをした若そうな男。

そいつらは、
見覚えがあるなんてもんじゃねェ。

「…河上…、高杉!!」

まさに俺達の探していた獲物。
こんな状況でさえなけりゃ、もう少しマシな出方があっただろう。

だが生憎、

「紅涙っ、」

俺には、
余裕の欠片もなかった。

男達に囲まれるように、
目隠しをされて縛られている女。

「っ…、土方…さん…?」

紛れもなく。

会いたくて、
仕方のなかった、

恋しい女だった。

「お前は…真選組の。」
「確か、鬼の副長でござる。」

高杉と河上が言う。

「ほう。こんなところまで来たか。」

口を歪ませて、高杉が笑う。

「仕事熱心なことだ。」

ククと喉を鳴らせ、紅涙の顎を持つ。

「やっ、」
「触んな!」

踏み出した俺の脚と比例するように、斬れるような風が吹く。

「どうしたでござるか?」
"あの女になると音が変わる"

目の端には河上。
俺の喉元に刃と突き付け、「ふむ」と考えて見せる。

「なんだ。そういうことか。」

今度は高杉が言う。

「鬼の副長と恐れられる存在が、こんな女如きで。」

その顔が至極楽しそうで。

俺の勘が、
考えたくないことばかりを考える。

「なかなか、万斉の眼は冴えていたということか。」

高杉が喉を鳴らす。
河上は「当然でござる」と冷静に答える。

「いいぜ、楽しめそうだ。」
「ふっ。晋助が楽しめれば、拙者も楽しい。」

俺の喉に、
僅かに喰い込ませた刃。

「っ土方さん!」

掴まれていた顎を振り解くように身体を揺すり、紅涙が声を上げる。

「黙れ。」
「いやっ、触らないで!」
「紅涙っ…待ってろ。すぐに終わらせる。」

腰元に手を伸ばせば、刃に触れる皮膚がちくりと痛む。

「おいおい、言ってくれるじゃねェか。」

高杉は笑い、
紅涙の顎を持ち上げた。

「触んじゃねェ!!」
「聞き飽きたな、お前のその言葉も。」

紅涙はまた振り解くように動くが、高杉の手が掴み直す。


「人のものほど欲しくなるんだよなァ。」


口の端を吊り上げる。

言い終わると同時に、
高杉の顔がゆっくりと紅涙に近付いた。

やめろっ…、
それ以上…紅涙に近づくんじゃねェ!!

「高杉ィィィ!!!」

側にいた河上の腹に目がけて足を蹴りあげる。

「おっと。」

河上が俺をかわす。
それも想定内。

少し下がったその瞬間に、俺は紅涙の方へ駆け出した。

だが。

「残念。土方殿は拙者がお相手するでござるよ。」

態勢を立て直す速さは尋常じゃなかった。

すぐに斬りかかってきた刀を交わせば、紅涙からまた遠ざかる。

「くそっ!」、
「あっちは晋助に任せるでござる。」

顎で指すその姿は、
まるで"見ろ"と言わんばかり。

顔を向けた俺に見せつけるように、
高杉はチラリとこちらを見て笑った。

「紅涙か、いい名前だ。」
「っ、ぃやっ!」

紅涙の耳元に顔を近づける。

鳥肌が立つ。

俺の目の前で、
俺の大切な女が壊される。

「や、めろ…っ、」

声が震える。
息が上がる。

「ぃやっ、土方さん!」

紅涙が声を上げる。
目を瞑らされてるせいで、恐怖心はより一層強いはず。

「やめろ…、やめろォォ!!」

まるで俺の声を切欠にするように、

「っ…っん、ぃっ…やァっ」

高杉は紅涙の唇を覆い隠すかのように口付けた。

「っ、紅涙!!」

顔を逸らしても、追いかける高杉の舌。

高杉の手は、
紅涙の身体を這いずる。

俺の歯がギリリと音を鳴らした。

「ほら、土方殿。早く終わらせないと晋助が調子に乗ってしまうでござる。」

ククっと笑った河上に、
俺はようやく腰にある刀を抜いた。

鞘を投げ捨てる。

柄を握り持つ俺の手は、
今までにないほど力で溢れていた。

「言われなくても終わらせてやらァ、すぐにな。」

その腐った考えを。
お前たちを。


「殺してやる。」


俺は、絶対に許さない。

「いい音がしているでござる。まるで死神のよう。」

河上は「いや、鬼人か」と笑う。

「ほざけ、俺ァそんな弱くねェ。」

今の俺は、
神をも殺せるような気がした。


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