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仲間


「そうと決まれば早速行きましょう!」

山崎が勇ましく立ち上がった。
俺はそれを見上げて「今かよ!」と言った。

「何事も早め早めがイイんですよ!」
"ちょうど着流しですし!"

山崎がニコニコして「さぁさぁ」と言う。

「…なんかお前…楽しんでねェか?」
「やっやだな副長!そんなわけないですよ!」
"俺の仕事の辛さを思い知れだなんて考えてるわけ…"

「あァん?」
「いいいいえいえいえ何も!」

酒の入った山崎は、輪を掛けて上機嫌。

…そうだ、酒だ。

「待て山崎。俺もお前も呑んでんだぞ?」

何かあった時、
今の状態なら確実に支障を来たす。

少なからず、
潜入する俺も酔ってねェとは嘘でも言えねー状態。

考える俺とは正反対に、
山崎はあっけらかんと「大丈夫ですよ!」と笑う。

「いきなり抜刀なんて、ありえませんって。」
"名乗るわけじゃないんですし"

…それもそうか。

「潜入ですよ?仲間ですよーって入るんですから。」
「…分ァってる。」

上からだ。

現にコイツ、
立ち上がってるから本当に上からだ。

…やっぱり一回シメとくか。

「山崎…、」
「はい?」
「お前…数回殴らせろ…。」
「はい?!」
"一回とかじゃなく?!"

握り拳で立ち上がった俺に、山崎は慌てて刀を差し出した。

「さ!早く行ってください!!」

ぐぐっと俺の背中を押す。
舌打ちをして、その手から刀を奪い取った。

「ちゃんと見張ってますから!」

そう言って、
異様なほどの笑顔で見送りやがったから、

「っぶべぇぇぇ!」

部屋から出る時に殴ってやった。
一発で我慢してやった俺は、

「俺って優しー。」

やはり丸くなったと思う。


虫も眠る時間。

「あー…すんません。」

酒場は随分と雰囲気を変えていた。
それなりに体裁を隠しているのかと思いきや、面白いぐらいに簡単に目に付いた。

「ァン?何や、お前。」

ガタイがデカくて、
焼け過ぎた肌。

「アンタらの噂、聞いたんスけど。」

どうなったら出来るのか検討もつかねェ顔の傷。
揃いも揃って三人とも。

「噂ァ?」
「兄ちゃん、何が言いたいんや?」

両脇の二人が喋る。

なるほど、
この真ん中が頭か。

「俺、金に困ってんスよ。」
「…。」
「入れてくれません?腕は自信ある方なんで。」

刀をチラりと見せれば、男は鼻で笑った。

「丁度ええ。暇潰しに腕試ししたろーやないか。」
「俺ら二人から刀奪ってみいや。」
"そしたら考えてもええわ"

店内にも関わらず、
男は鞘から刀を半分抜いて、鈍く光る刀身を舐めた。

「いいんスか、それで。そこの人は?」

俺は顎で頭らしき男に言った。
その男は俺を睨み、口の端を吊り上げて笑う。

「お前、面白い男やなあ。俺はそれで構わんよ。」
「決まりやな、兄ちゃん。」
「ほなら、やりましょか。」

ニマニマと汚ねェ笑みを浮かべて男が言う。

クソ山崎。
俺をこんな不潔なところに放り込みやがって。

俺は店内を見回した。

「外でしませんか、ここではちょっと。」

それに頭が鼻で笑う。

「そうやな、外行こか。」
"お前ら、外でやれ"

従うように、男二人が外に出た。


無風。
あるのは湿気と暑さだけ。

「ただでさえ暑いっつーのに…。」

肌に纏わりつく空気に呟く。

酒のせいで体温も高い。

今頃、
山崎はうちわ片手に見物してんのか。

…やりかねねェ。

「なんや、ビビったんか?」
「兄ちゃんやめとくかー?」

ヘラヘラ笑う。

こんなヤツらに刃を汚す必要もねェ。
後で磨くのが面倒だし。

鞘でいい。

「…行きますよ。」

それからどれぐらいだろうか。

いや、
考えるほど経っちゃいねェ。

「ちょ、兄ちゃん!」
「もう俺ら刀ないやん!」
"何でまだ振り上げてんの?!"

恐ろしく弱いヤツらだった。

「雑魚…。」
「兄貴ィィ!コイツ、こんなこと言うてますでェ!!」
「俺らのこと雑魚や言うてるぅぅ!!」

縋りつくように男二人は"兄貴"に助けを求めた。
頭は笑って「その通りやろ」と言う。

「兄ちゃん。アンタの腕は本物らしいな。」
「そりゃどうも。」
「今ので分かった通り、俺らは雑魚の寄せ集めや。」
"そんなんに興味あんのか?"

警戒、か。

頭だけあって、
少しばかりキレるようだ。

「興味ありますよ。俺も雑魚ですし。」
「雑魚やない、充分な力やでアンタは。」
「金が欲しいんスよ、生活のために。」

俺の言葉に、頭は薄く溜め息を吐く。

「確かに、強盗だの何だのは生活のためにやってる。」
「…。」
「しゃあけどな、それ以上にせなアカンこともある。」
「"それ以上に"…?」

頭は黙って頷いた。

「今はまだ言えん。信用したわけやないからな。」
「確かに。」

腰元に刀を直しながら相槌をうつ。

それを見ていた頭が、
また鼻で笑う小さな音が聞こえた。

「それでもええ言うんやったら、俺らと一緒に来ィや。」

頭の両脇に、
身なりを整えながら雑魚二人が並ぶ。

「兄ちゃん、良かったな!」
「アンタほんま強いわ!」
"殺されるか思たで"

先ほどまでのことが嘘のように、雑魚の二人はガハガハ笑う。

「お前がおったら、俺らも少しは自由効くかもしれん。」

そう言って、
頭まで同じようにガハガハ笑う。

まったく…。
おめでたいヤツらだ。

「ありがてェ。入れてもらうぜ。」

第一段階突破、だな。

煙草を吸おうと懐に手を入れた時、


「…、」


視線を感じた。

男三人に気付かれないよう、
ゆっくりと目を向ければ、山崎が親指を立てて笑っている。

「…。」

山崎よォ、
お前の仕事はこんなもんかよ。

潜入っちゅうのは楽な仕事じゃねェのか?
覚えてろよ、テメェ。

親指を立てる山崎に向かって笑いかけてやる。

山崎はすぐさま顔色を青くして、親指を隠しやがった。


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