23
ある晴れた、
陽の昇った朝。
「…少し、出てきます。」
私は土方へ会いに行くことにした。
決行するわけじゃない。
決行は、翌日だ。
ただ、残り時間があやふや過ぎる。
高杉さまが期限を出したのは、正確には今日の午前。
三日という制限が、
いつからいつまでの三日間なのかが分からない。
それも含めて、
高杉さまは私を見て笑っているのかもしれない。
「どこ行くつもり?」
事務所の椅子にドッカリと座った坂田さんが私を見る。
足を進めていた私が彼に振り返った時、
「あーこれは聞くよ?保護者としてね。」
フフンと坂田さんは笑う。
「家を出て行く時はどこに行くか言うもんだろ?」
私は彼に苦笑して「真選組屯所に」と言った。
「土方さんに、少し会って来ます。」
それを聞いた坂田さんは目を大きく開く。
「え?!何何もしかして告白?!」
「ちっ違いますよ!」
「告白アルか?!あんなニコチンに告白アルか?!」
違う部屋から飛び出して来た神楽ちゃんも、同じような顔をして詰め寄ってくる。
「違いますってば!」
「女が男のとこに"ちょっと"だぜ?!告白しかねェよな、神楽!」
「そうネそうネ告白しかないアル!!」
昨日の鋭さが欠片も窺えない。
私は賑やかなその空間に背中を向けて「行ってきます」と足を進めた。
「ちょーっと待った、紅涙ちゃん。」
私は面倒そうに返事をして振り返った。
「何ですか?」
「どれぐらいに帰ってくんの?」
「え?」
「ほら、晩飯の予定とかあるし。」
「…私の分、作ってもらったことありませんけど。」
坂田さんは「あれ?そうだっけ?」と首を傾げる。
彼はつまり、
「遅くなりませんよ。」
戻ってくるのかが、知りたいのだろう。
私も、
無用な心配は掛けたくない。
言えることは、言った方がいい。
「話が終わり次第、戻ってきます。」
私が答えると、
坂田さんは「そっか」と浅く頷いた。
「気をつけてな。」
"槍降るかもしんねェし"
私はそれに笑って、坂田さんのところを出た。
真選組屯所前には、今日は誰もいなくて。
気は引けるが、
少し中まで進んで「すみません」と声を掛けた。
中から出てきたのは坊主頭の大きな人。
おまけにヒゲも生えてる。
こんな人、いたんだ。
「あっあの…、」
「はい?」
「土方さん、いらっしゃいますか?」
大きな彼は「副長?」と僅かに目をしかめる。
「どんな御用で?」
「あー…えっと…少し話が…」
「"話"?」
あからさまに怪しいという顔をされる。
「悪いけど今から市中見回りだから後にしてくれねーか?」
その人は「副長には伝えとくよ」と言って、私に背を向けた。
「えっ?!あの、それは」
「あー名前だけ聞いとくか。」
面倒そうな彼に「で?」と迫られる。
私は「早雨 紅涙です」と顔を引き攣らせて答えた。
するとその人は私の名前を呟く。
「ん?その名前…どっかで聞いたような…。」
自分のヒゲを触るようにして考える。
そうしていると、
「おい原田、車の用意は…」
「あっ!」
「な…、紅涙?」
好都合なことに、土方が奥から出て来た。
「どうしたんだ、お前。」
「あ、えっと…、」
"少し話があって…"
そう声を出そうとした時、大柄の男の人が「ああ!」と頷いた。
「そうか!副長の!!」
「うるせっ、原田。お前、声デケェよ!」
「あ、すみません。」
"いや〜スッキリしました"
先ほど私に向けていた顔とは違い、彼はにこやかに笑う。
「初めまして、紅涙さん。」
"俺、十番隊の隊長してます原田です"
きっちりと頭を下げた彼に、私も同じように挨拶をする。
それを見た原田さんは「そうだ!」とまた大きな声で言った。
「副長、代わり行って来ますよ。」
「あァ?」
「外回り。」
「あー…、」
二人で話して、土方は悩んだ様子で私を見た。
「いや、俺が行く。」
「え、けど紅涙さん来てますし…。」
土方は原田さんの声を背中越しで聞きながら靴を履く。
「その代わり、お前は待機。」
「え?俺がッスか?」
「あァ。俺一人で行ってくる。」
土方の言葉に原田さんは「あーなるほど」と頷いた。
「分かりました、ではお願いします!」
綺麗に敬礼をして、
「では副長をよろしくお願いします!」
綺麗な坊主頭を下げる。
私はそれに訳も分からず「いえいえ」と頭を下げてしまった。
土方はその変な状況に笑って、
「じゃあ行ってくる。」
"行くぞ、紅涙"
二人で、屯所の外へ出た。
「ってなわけだから、見回りに付き合ってくれよな。」
土方は煙草を点けて、私に笑う。
「…、」
そうして向けられる表情にも、罪悪感が私の中でいっぱいになる。
「どうした?」
「…いえ、」
今日、だけ。
今日しか、もうない。
こうして話せるのは、今日だけだから。
「…仕方なく、付き合ってあげます。」
土方の前で居た、私で居よう。
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