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天使


土方さんが、心配そうに私を覗き込む。
優しく髪を撫でて、

「俺に話してみろ、紅涙。」

私に、たくさんの想いをくれる。

「っ、土方さん…っ、」

打ち明けて、何が変わるのか分からない。
全てが悪く流れてしまうかもしれない。

だけど二人なら、
私たちなら新しい形が見い出せるかもしれないから。

「…私っ、」
「ああ。」

あなたを巻き込む私を、

許して…。

「私…っ、」

一度死んでしまったこと、
生き返って今があること、
それが長くないこと。

口にしようとした時、


『ダメだよ、紅涙。』


頭の中に、声がした。


『言っちゃ、ダメだ。』


この声は…。
私が瞬きをした、たった短いその間に、

「っ…、あなたは…。」

私の目の前に、金色の彼が立っていた。
綺麗な顔は、少しだけ寂しそうに笑んだ。

「…久しぶり、かな。」

私は唖然としたまま彼を見て、背景にハッとした。
この死神が現れた場所は、屯所だ。
それもこの土方さんの部屋で、私の傍には本人もいる。

「まっマズイよ、ここに出ちゃ!」
"土方さんがいるのにっ"

私の慌てた様を、彼がキョトンとした様子で見る。
「あー」と言って、軽く笑った。

「大丈夫だよ、時間を止めてるから。」

そう言って、時計を指差した。
確かに秒針は止まり、土方さんは瞬きもせずに動かない。

「…ほんとだ。」
「うん、だから安心して?」

嬉しそうに小首を傾げた彼が私に近寄る。

「紅涙、さっきは危なかったね。」
「"さっき"?」
「言っちゃいそうになったでしょ?」

そう言われて、私は俯いた。

「…ごめん。」

こうして止められなければ、言うつもりだった。

「ねぇ紅涙、…辛い?」

私は小さく頷いた。

「少し、辛いかな。」
「…うん、…そっか。」

彼が私の頭を撫でた。
顔を上げれば、初めよりずっと悲しく笑んだ彼がいた。

「俺、…やっぱり間違ってたんだ。」
"コウの言ったことはいつだって正しい"

"コウ"。
彼の兄で、正反対の黒い死神。

「紅涙が楽しく過ごせるように、って俺…記憶消さなかったんだ。」
"コウに…怒られたけど"

…そう、だったんだ。
私が彼らを忘れていないのは、そんな理由があったんだ。

「紅涙に…辛い思いなんてさせたくなかったのに。」
"どうして俺は、こんなに馬鹿なんだろう"

私は撫でてくれていた手を掴んだ。
驚いた様子で目を開いた彼がいた。

「馬鹿なんかじゃ…ないよ。」

私が、馬鹿だった。
私のためにしてくれたのに、なんてことを言ってしまったんだろう。

「ごめんね、…ありがとう。」
「…紅涙…、」
「私…君たちのことを覚えてたから、この数日を大切に…過ごせたよ。」

知らなければ、
記憶を消されていれば、
当然、私は死ぬ前のように過ごしていた。

今こうして思い返しても、
大したことを思い出せない過去のように、ただ過ごしていた。

「…でも紅涙がこんな風に悲しむ必要はなかったんだ。」
「ううん、…それ以上のものを貰ったもの。」

あなたがそんな顔をする必要はない。

君が私を思ってしてくれたことだと知れて、
私はただ"こわい"と思うことから少しだけ救われたよ。

「だから…、平気…だよ。」
"心配させて、ごめんね"

私が生きてる今は、
こんなにも色んな想いで支えられてたんだね。

「紅涙…。」

君は、本当に綺麗。
外見も中身も、何も汚れていない。

そんな彼が、ぽつりと言った。


「…俺、変なんだ。」


私と同じように、横に座る。
時の止まった部屋に、この世にない声が響く。


「やっぱり今だって、紅涙は早く死んで、俺と一緒に来てほしいって思うのに、…なのに…、」


隣に座る彼の腕が触れる。
人と同じ体温を感じた時、その熱は私の頬に触れた。


「紅涙を、…死なせたくないって…思う。」
"俺、矛盾してる"


悩んで苦しむように、眉に皺を寄せて。

「…よく聞いて、紅涙。」

苦いものを吐き出すように、ゆっくりと目を閉じた。


「終わりが、…近付いてる。」


彼の言葉を、"やっぱり"と思った自分がいた。
同じように、
"もう土方さんと離れてしまう"と痛くなった胸もあった。


「…俺を触れるのが、…証拠だよ。」


言われて、気付いた。

そうだ。
"人間からは死神に触れない"って、言ってた。
私、彼の手も掴んだし、熱だって感じた。

「…ごめんね、紅涙。」

泣き出してしまいそうな顔で、彼は苦笑する。

「俺はやっぱり、…言いたいみたいだ。」
"紅涙を苦しめるって、分かってるのに"

そう言って悲しく笑む彼が壊れてしまいそうで、

「…ルカ君。」

私は、抱き締めた。

「名前…、覚えててくれたんだ。」
「当たり前でしょう?だって君は、」

君は、


「私の神様なんだから。」


私の、素敵な死神だ。


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