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弟の特権


紅涙が去った後、

「おい、ルカ。」

すぐにコウが俺を呼んだ。

やば。
もうバレた?

「なにー?」

あからさまに不機嫌なコウの声を無視して、俺は首を傾げる。
するとそれすらもバレたかのように、「お前…」と睨んできた。

「お前…さっき何した?」
「えー?何の話?あ。ごめんね、俺仕事あるから、じゃ。」

サッと背を向ければ、「おいコラァ!」と肩を掴まれた。

「さっき早雨に何したっつってんだよ!」
「何ってお別れの挨拶だよ?」
「いーや違うな!」

コウは鋭い。
俺はトボけて「コウもしたかった?」と笑った。
すると思いっきり殴られた。

「イッテー!」
「どういうつもりだ。」
「いいじゃん別に。紅涙のためだよ。」
「それが駄目だっつってんだよ!そういう決まりだろーが!」

そう。
俺はさっきの別れ際、

『また逢える、おまじない。』

紅涙の記憶を留めた。

俺たちと話したことや、
俺たちに出逢ったことを忘れないように。

「だってすごいイイ子だったじゃん。コウだって思っただろ?」
「お前の"イイ"ってのは好みの問題だろーが!」
「それもあるよ、もちろん。でもそれ以上にさ、…イイ子だった。」

紅涙を思い返してみた。

「俺、お礼言われたの初めて。」

『私が生きられたのは君のおかげだね。』

「そりゃお前が"初めて"とんでもねーミスしたからだろ。」
「いちいち煩いなコウは。」
"だから昨日の子どもにも泣かれたんだよ"

すぐにまた頭にゴンと痛みが走る。
ほら、そうやってコウはすぐに手を出す!

「とにかくこんなことは二度とすんなよ。」
「分かってるよ。」
「アイツのためだと思ってても、そうじゃねーかもしれないんだぞ。」
「…煩い、あっち行け。」

コウは呆れるように短い溜め息を残して消えた。

言われなくても、紅涙以外にはしない。


「紅涙のために、…なるさ。」


コウの言ったことが気になる。
俺が間違ったみたいな言い方だった。

「…いーや、きっとコウは拗ねてるんだ。」

俺が紅涙と仲良くしたから。
そうだ、それしか考えられない。

それにしても最高のミスだ。
あんな出会いがあるなんて。
俺グッジョブ。

「紅涙、楽しんでくれるといいなー。」

延びた時間を、君は何に使うんだろう。

自由に、
楽しく、
君らしく生きてほしい。

出来れば彼女の時間が長くありますように。


「また、逢いたいな…。」


呟いた俺の声はすごく小さかったのに、

「ルカー!てめぇまた余計なこと考えてんじゃねーだろうなー?!」

ずっと遠くで、
姿も見えないコウの声がした。


prologue END


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