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停止


「真選組はただの人殺しよ!」

その言葉に、
私の心臓が大きく脈打ったのを感じた。


『お前たちは立場の確立された過激派攘夷と何も変わらない!』
"正当ぶった理由をつけた人殺しだ!"


…私たちは去年、
攘夷浪士の潜伏場所を突き止め、検挙に踏み込んだ。

あっさり捕まる者などいるはずもなく、当然のように斬り合いになった。

…死人も出た。
その中に、彼女の父がいたそうだ。

「父は土方に殺されたって仲間が教えてくれた…!」

土方さんは殿だった。
当然、彼も多く刀を振るった。
斬った相手が、死んでいることだってある。

「父が死んで、私の家は壊れた…。」
"ずっと静かに過ごしてきたのに"

彼女の目から、涙が落ちた。

私は何も言えなかった。
私たちがしたことは事実だし、彼女の父が死んだのも事実。

「母は父を追うように死んで…兄と私は、仇を討つことだけを考えて生きてきた!」

彼女はずっと機会を窺い、狙っていたのだと。
ギュッと小刀を握り直して彼女が言う。

「だけど私たちみたいなのが土方を殺せるわけない。…だから…だからあなたにした。」

"あなたが死ねば、土方も悲しむ"

彼女は口元に笑みを浮かべた。
…なのに、眼は泣いていた。


「…死んでよ、早雨さん。」


じりっと彼女が近づく。
私は動かなかった。

「…、…真選組は、」

本当なら、
どうやってあの小刀を落とさせるかとか、立ち回りを考えなきゃいけないのに。

「…真選組は、…あなたが思っていた通りの組織でしたか…?」

私の中は、
そんなことを考える頭なんかよりも、

「嫌でも潜入のために働いた真選組は、あなたにはどう見えましたか。」

私たちのしていることが、
私たちが一生懸命考えて動いてることが、

こうやって伝わっていることが虚しくて、悲しくて。

「真選組は、…やっぱりなくなった方がいいですか?」

決して"自分たちは正当だから"と押しつけているんじゃない。

犠牲が出ることを防ぎきれなかったのも私たちの責任。

…だけど、
土方さんがあんなに頑張ってるのに。


「本当に…ただの人殺しでしたか…?」


そんな言葉と一緒に言われるのは、あまりにも哀しかった。

どうしたら、伝わるんだろう。
やはり私たちが武装する限り、無理なことなんだろうか。

「真選組は、」
「う、うるさいっ!アンタなんかには一生分からない!」
"大切な人を失った悲しみなんて!!"

…確かに、
私は分かったふりかもしれない。

それでも、


「土方さんは、分かってますよ。」


彼は、違う。

あの人はたくさん、
たくさん大切な人を失ってきたから。

「今度、土方さんと話してみてください。」
「っ?!馬鹿じゃないの?!話すわけない!」

彼女は呆れたように吐き捨てた。

「あなたが感じたこと、全部を分かってくれるとは言えません。でも」
「うるさいうるさいうるさい!」

そう言いながら顔を振った彼女の髪が揺れた。

そして、

「アンタなんかが偉そうに言わないで!」

小走りに走った彼女は、
しっかりと両手で小刀を握って私の腹部を刺した。

「っ…、」

それからは、
何もかもがゆっくりに感じた。

顔面蒼白になった彼女は私に得物を突き刺したまま走り去った。

私は膝が折れるように座り込んで、自分の腹部から小刀を引き抜いた。

途端に血が溢れるように出て、失敗したと思った。

こういう時は抜いちゃダメなんだっけ?
でもいつまでも痛々しいし。

ああそうだ、
土方さんに連絡しないと。

…もう少し後でいいか。
だってまだ痛すぎるし、うまく話せないだろうから。

ちょっとだけ、休憩してからにしよう。

「…、…ひじ、か…、た、さ…」

すみません、土方さん。
少しだけ、帰りが遅くなります。

「…、」

出来の悪い補佐で、ごめんなさい。


「紅涙?」
「っ?!」
「どうした、大丈夫か?」

いつの間にか電話を切っていた土方さんが私を心配そうに覗き込んでいた。

「顔色悪いぞ。お前ほんとはどっか怪我してんじゃ…」
「だっ大丈夫です!全然!」
「そうか…?でもそんな汚れるぐらい派手に転んだんなら怪我の一つぐらい」
「いやほんとピンピンしてますから!」

私は笑って、土方さんの背中を押した。

「ほら、早く書類整理しに帰りましょう?遅れてるんですから。」
「お前が言うな!ったく誰のせいで…」

土方さんは私に押されながらブツブツと言う。
私は煩い心臓を止めるように、ギュッと服を握り締めた。

そうだ彼女だ。
さっき、局長と居た時に倒れた彼女。

私を見て、
生きてることに驚いて、倒れたんだ。

「…。」

彼女は私が死んだかどうか、確認に来たのだろうか。

だからあれだけ驚いた?
…いや、死神さんは上手く繋げるって言ってたし。

でもどの程度で上手く繋げてくれてるんだろ…。

…。

「あー…頼りない…。」
「なんか言ったか?」
「あっいえいえ。何も。」

とにかく戻ったら、彼女の様子を窺おう。
そう、思っていたのに。


「あの子なら辞めたよ。」
"意識戻ったと思ったら急に出て行った"

屯所に戻った時にはもう、彼女は消えていた。


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