Twitter Log(ナタリアが刺されるだけ)



まずナタリアが知覚したのは衝撃だった。
誰かが自分にぶつかってきた、という衝撃。
続けて襲いかかってきたのは腹部から全身に走る灼熱だ。
それが痛みだと気づくのに一拍かかり、他人事のように自分の腹を見下ろせばそこからは何かのジョークのようにナイフの柄が突き出ている。
刺されたのだ、と気づいた瞬間、痛みはやってきた。

「ナタリアッ!!」

異常を察知した仲間が名前を叫ぶ。
こんな街中でまさか殺人に及ぶなど誰もが思わなかっただろう。
ナタリアを刺した人、ボロいローブを纏った小柄な人物をジェイドが素早く拘束し、ガイが剣を抜いて牽制し、ティアは慌ててナタリアに治癒術をかける。
未だ現実をうまく認識できていないナタリアはそれでも痛みから悲鳴をあげようとしたが、呼吸器官に影響が出たらしく口からこぼりと血塊が零れただけだった。

「お前……っ!!」

ナタリアが血を吐いたことで怒りが臨界点に達したルークが、ジェイドに拘束された犯人のローブを無理矢理剥ぎ取る。
そして怒りに歪むその顔を見て、飛び出しそうになった罵倒は喉の奥へと消えていった。

「お前……ナタリアの……」

見たことがあるその顔に、続けて浮かんだのは困惑。
見ればガイもまた同じ表情を浮かべており、ジェイドやアニスはどういうことだとルークやガイを見やる。
しかしジェイドに押さえつけられたままの犯人ーーうら若い少女と呼ぶべき彼女は、ルークやガイを見ても表情を変えることなく、ナタリアをきつく睨みつけていた。

「な、ぜ……」

ティアの治癒術を受け一命を取り留めたナタリアもまた少女の正体を知っているようで、怒ることなく驚愕の表情て少女を見ている。
ジェイドやアニスがどういうことだと問いかける前に、ナタリアの問いかけに激怒した少女は恨みを込め喉から声を絞り出していた。

「何故?何故ですって?馬鹿なこと言わないで!貴方のせいよ、貴方のせいで私達は、私達はこんな目に……っ!!」

瞳に涙を貯め、唸るように恨み言を繰り返す。
怨恨と判断したジェイドがルークに少女の正体を尋ねると、少女はナタリア付きの女官であると答え、ティアとアニスはその返答に驚いた顔で少女を見た。
王女付きの女官といえば貴族の女子の中でも最高の就職先だ。
しかし今の少女は見窄らしく乞食のようで、とても貴族には見えない。

「お前、最近顔見なかったけど何でこんなとこに」
「そんなの決まってるでしょ、そこの偽姫が城を出奔した責任を取らされてみんな解雇されたからよ!!」

その言葉を聞いてナタリアの顔から血の気が引いた。
そう、ナタリアは気付いていなかったのだ。自分のせいで職を失った者がいるということに。
そしてそんなナタリアに追い討ちをかけるかのように、少女は吠える。

「アニーは娼婦に身を落として自殺したわ、ユスは家族に迷惑はかけられないって姿を決してそのまま行方不明、私は城から解雇された人間なんて置いていけないと家を追い出されてそれから乞食生活よ。あんたのせいよ、あんたのせいで私達は……っ!!」

ナタリアの脳裏に次々と浮かんでは消える、かつて城で自分の世話をしてくれた女官達。しかし今は不幸のどん底であると知り、しかもそれが自分が出奔したせいと言われてがたがたと全身を震わせ始める。

「何でのうのうと生きてるのよ、何でまだ笑ってるのよ、あんたも同じように不幸になりなさいよ!!」

泣きながら、少女は呪いの言葉を吐き続ける。
やがて憲兵がやってきて少女は連れていかれたが、ナタリアの震えは止まることなく吐き出された呪いがナタリアを蝕んでいく。

ごめんなさい、と呟いた言葉は誰にも届かない。


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