二回目の世界を



八月十五日 十八時
名前死ぬ

八月九日 朝?
名前が戻る

・死因はバラバラ
・死ぬときに名前の周りから人がいなくなる
・これまでに10回死亡
・10回からは俺もタイムリープするが要因は不明
・タイムリープの原因は不明



自分で打ち込んだスマホのメモを見ながら、その曖昧さに頭が痛くなる。なんやねんこれ、ほぼ分からへんやん。
次の日、サークルの練習に行くのに駅で亮ちゃんを待っている間に、昨日の話を整理してみた。ほんまは今でもあれがフラッシュバックするし、具合悪くなる。けど、名前のが辛いやんな。あいつが一人で色々背負ってるもん、俺が軽減させたい。
と、ゆうても。名前と一緒にいるときは絶対助けたる!って息巻いてたけど、こんなほぼヒントなしでどう助ければええねん。そもそも原因とかわからんとどうしようと出来そうにないのに、名前は記憶に無いっていうし。


「あかーん……」

「何があかんの?」

「うわっ、亮ちゃんおはよ」

「おはよ。で、何?」

「いや、なんでもあらへんよ。給料足りひんなぁって」

「ははっ。お前そんだけバイト生活で給料足りひんって何買うつもりなん」


爽やかに笑う亮ちゃんを学部のやつらが見たらどう思うんだろう。亮ちゃん、一人のときは人見知りが発動して、めっちゃ顔が厳しいねん。会話もすぐに終了させようとするし、サークルに入るときのはっちゃけ具合とはほんま別人。そのギャップが可愛いねんなぁ。
亮ちゃんはずっと俺と名前と一緒にいた。昔からこの三人組は仲良しで有名やった。亮ちゃんがいつも俺らのこと外に引っ張ってくれて、ゲームやるで!とか秘密基地作ろ!とか……色んなことやったなぁ。たまにやんちゃで見てて危なっかしいとこあったけど、クールに育ったもんや。


「さっきからじろじろ見て……何? 恥ずかしいやん」

「ん? 亮ちゃん成長したなぁって」


電車に乗って、いつもの端っこの席に座る。こっちからの電車はいつも人が少ない。せやから、いつも好きなとこ座れてめっちゃいい。反対側は割と混雑することが多いらしくて、この前マルが潰されて骨折しそうになったわ〜!なんて言っていた。
ふと、上の広告が目に入った。大きく書かれた「花火大会」の文字に、花のイラスト。ああ、なんかこれ、どこかで見たなぁ。


「あっ、せや。もうすぐ花火大会やん。大倉、十五日暇?」

「えっ……」


ああ、そうやった。花火大会、この日に誘われたんやっけ。十五日、俺たちは昼から遊んで、夜は花火大会に行こうって言ってたんや。


「あー……どうやろ」

「なんか予定あるん?」

「んーわからんけど、入りそうな予感がする」

「なんやねんそれー。いい子おるんか」

「……せやな」

「はっ!? なんやねんそれ! 聞いとらん! 話てーや!」


まだ分からんし、と言うと、亮ちゃんはちょっとくらいええやんか、と唇を尖らせて拗ねた。ああ、なんやろ、こういうとこ弟っぽい。
でも、十五日は多分、無理や。今ははぐらかしてるけど、名前と過ごすやろうし。……言えへん、よな。


駅に着いて、スタジオまで行って、先に中にいたのはヤスとマルだった。


「亮ちゃん、大倉。おはよー!」

「おっはー!」


朝から元気な二人はチューニング途中で俺ら二人に挨拶してきた。ヤスは特にそうやけど、会った人にはちゃんと目を見て挨拶しないと気が済まないんやって。凄いことやなぁって、いつも思う。


「なあなあ! 来週の十五日、章ちゃんとマルなんかある?」

「なんもないでー」

「俺も。あっ、祭り?」

「せやねん! 一緒いこ!」

「ええなぁ。浴衣とか着ちゃう?」

「男同士で浴衣着てくとか寒ない?」

「大倉も来るん?」

「あー……まだわからへん」

「えっ、バイト無いやろ?」


マルちゃんが痛いとこ突いてきた。同じバイト先で働いてるから、シフトはバレてる。だから、バイトは理由に使えんかった。


「なんかええ子がいるんやって」

「ひゅー! モテモテやん!」

「へえ……早いなぁ」

「せやろ! 早すぎやろ! 俺、春別れてフリーなんに、誰も誘ってくれへん……」

「亮の場合はもっと親しみやすいオーラ出した方がええんちゃう?」


スタジオの扉が開いて、先輩三人組が入ってきた。横山くんの言葉に、俺親しみやすいで、と本日の拗ね亮ちゃんが登場した。


「俺ら、もう準備終わってるからいつでもいけるでー」

「おん、ちょっと待ってて」



────



そういやさ、と怪談話を始めたのは、マルちゃんだった。バンドの練習も終盤になって、そろそろ上がるかーって時に、怪談好きの稲川先生から聞いた話を思い立ったようにし始めた。ああ、デジャビュや。さっきの亮ちゃんからの誘いも、今日の練習内容も、今のも、全部二回目でタイムリープしたことを実感する。


「──それで、その駅には誰も人がおらんねん。おかしいやろ? 無人駅にしても、何も気配を感じないんやって。だから、その人は警察に電話したんやけど、警察は取り合ってくれない。電車もずっと来おへんくて、タクシーとかなんか車探そうと思おて、駅出たんやけど、やっぱりそこには何もおらへん。虫の気配すら無い。怖くなって、その人は線路沿いを歩き出した。ずっと何も無い線路沿いを歩いて行くと、トンネルが現れた。そのときや。向こうから祭囃子が……」

「あかん! もう出る時間やぞ! マル、その辺にしとき!」


黙ってマルちゃんの話を聞いていたみんなに、村上くんの怒号が飛んだ。若干声が震えてる。うん、めっちゃ怖い。なんかもう電車乗りたく無い。いややー。亮ちゃんと二人で居ればその駅に行くこと無いやんな、と亮ちゃんの方を見れば、同じことを思っていたのか、眉をひそめた亮ちゃんと目が合った。今日はちゃんと直帰しような。


「ちぇー、こっからが面白いのになぁ」

「えっ、そうなん? 後で聞かせてぇ」

「あかんぞ! 話すなら電車降りた後や!」

「別に電車で話してても連れてかれることなんかないやろ」

「ヨコは甘いねん!」


……ああ、そうや。マルちゃんって、オカルト好きなんやっけ。
ラインを開いて、マルちゃんとの個人トークを開く。


『家帰ったら電話してもええ?』


スマホをいじってたマルちゃんは不思議そうに俺の方をちらっと見たけど、気を使ったのかラインで返事してくれた。


『ええよー!』


その後に来たスタンプはシャケが川上りしているスタンプだった。