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「寝てる……」

すぅすぅと顔に似合わない寝息を立てている爆豪を見ながら思わず呟く。彼の寝顔を見るのは初めてだった。

今日は相澤先生が会議のため急遽ミッドナイト先生の授業となった。なのだが、ひょんなことからあのスーパー才能マンの爆豪勝己くんが彼女の眠り香をもろに食らってしまいました。ちゃんちゃん。流石に彼も空気中に霧散されたフェロモンには太刀打ち出来なかったのか、それとも調子が悪かったのか。敢え無く意識を失ってしまったのだ。
その為1番体の大きな障子くんにより、とりあえず自室に運ばれた爆豪。夕御飯の時間になっても起きてこない彼を起こしに、じゃんけんで負けた私が行くこととなった。緑谷くん曰く、寝起きの爆豪は特に怖いらしい。意を決して扉を開け、部屋に入る。ベッドの上の爆豪は全く起きる気配は無かった。

そして冒頭へ。
皆に心配されてしまう前に起こそうと思っていたのだが、ここまで綺麗に寝ているとそれも躊躇ってしまう。え、これ起こしていいの?めちゃめちゃキレそうじゃない?どうせ怒られるならしかと堪能してから怒られよう。そう思い、彼のベッドの枕元近くに座り、まじまじと顔を覗く。

「うわ、肌つるつる……あ、眉間に皺ない」

初めて見た、と思ったときにはもう、指が自然と伸びていた。えいっと眉間を優しく撫でる。それでも彼は無反応で、ミッドナイト先生の個性の凄さを改めて感じた。

「おぉ……意外と肌質は硬いんだ……男子って感じ…?」

頬をふにふにと軽く押すと押し返してくる弾力の良さに声が漏れる。髪の毛は見たまんまの硬さで、撫で甲斐があった。
しばらく頭を撫でていると、一定のペースというのは人を眠りに陥らせるらしく。何故か私のほうがうとうととまぶたが下がってくるのが分かった。やばい、寝てしまう。

「ばくごー。起きてー。起きろー」
「……ん、」
「あ、目開いた……おきれる?」

雑な声掛けを続けていると、うっすらとだけ目を開けた爆豪。けどその顔はまだ半分寝ぼけていて。貴重だなぁと思う反面、私も眠気がもうそこまで迫っていた。頑張って目を開けていようとしていても瞼はどんどんくっつきそうだった。それでも何とか爆豪と会話を続ける。

「なに、してんだよ……」
「…ふふ、寝ぼけてる」
「るせー……ねる」

起きて直ぐにも関わらず、二度寝を宣言する爆豪はなんだか幼くて可愛く思えた。普段の顰めっ面も今は穏やかなもので、荒っぽいのは口調だけだった。その口調もふわふわとしたものだけれど。

「ん、おやすみ」
「……そこいんの、うぜぇ」

ぽんぽん、と小さい子にするようにお腹のあたりを叩けば、何かを勘違いしたのか、爆豪が掛け布団を押し上げる。それはまるで入ってこいというようだった。思わず、いーの?と尋ねた時には既に爆豪は殆ど夢の中へと向かっており、返事は無かった。爆豪が良いと言ったなら良いよね、うん。誰にでもなく言い訳をしながら、お言葉に甘えてとベッドに潜り込む。ぬくぬくとしたベッドの中は爆豪の体温と仄かな甘い匂いで包まれていた。首筋近くに顔を近づければより一層それが増した気がする。そしてその匂いは一気に私の眠気を呼び覚ましてしまった。思考がうまく働かない。
あー、でも私なんでここいるんだっけ…
ぼーっとする頭で考えてみても答えは出ない。なら考えても無駄かな、と諦めて爆豪の腕の中にまで潜り込む。クラスの女子たちに怒られそうだけど、温かい爆豪が悪いのだ。だってこんなにも安心するなんて。
ふと見上げた爆豪の顔はさっきと同じように穏やかなものだった。いつもの眉間の皺が無いだけで印象変わるなぁと思いながら、するりと頬を撫でて私も瞼を閉じた。

「ばくこー、おやすみ」
「…ん」


暫くしてから心配したクラスの皆が尋ねに来たのだが、一緒のベッドに抱き合うようにして眠る私達を見て大声を上げたのはまたもう少し後の話です。



           


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