「せめぇ」
「爆豪のせいじゃん…」
「うるせぇカスが!捕まれ死ねクソ泣き虫女」
「ちょ、うるさい!みつかる!」

コソコソと身を潜める私達…というかA組は今、『缶蹴り』の授業中だ。グラウンドβという広い地区の一部区域でのみ行われている。見つかれば即アウト。見つかってしまったら鬼が缶にたどり着くまでに缶を蹴らなければならない。オールマイトが言うには機動と索敵・情報共有の訓練になるらしい…。戦況を見極め、タイミングを見計らう。それにピッタリの訓練だとか。本当だろうか。
それにしても鬼が相澤先生とスナイプ先生だなんて、こちらに勝機はあるのだろうか。一応パワーアンクルはしてくれているけれど。一見すると、以前の期末テストの様な設定だ。だからこそ以前からの成長も見たいんだとか。

そして時間は過ぎ、現在。
皆と連絡を無線で取り合いながら、漸くターゲットの缶が射程圏内となった時に事件は起こる。私が隠れていたのはビルの3階部分。更衣室を想定しているのか、ロッカーが立ち並ぶ狭い部屋で外の様子を伺っていた。近くまで来たことで神経が極限まで張り詰めた中、誰かの気配を感じロッカーに隠れれた。息を潜め、誰だったのかと耳を澄ませる。しかし思っていたよりも早く、扉は乱暴に開けられた。急に差し込む光に目を潜めながらどちらの先生かと見れば、それは爆豪だった。
唖然としていると、無線から音声が届く。それは障子くんからで、私達がいるビルの方向に先生が向かったという。慌てて再び隠れようとしたのは私だけではなく。何故か爆豪までロッカーに入ってしまったのだ。その時の衝撃でなのか、扉はひしゃげてしまい、出られなくなったのだ。馬鹿爆豪。
ここで力を使おうにも爆豪が爆発するわけにもいかず。ギィギィと喧しく音を立てるロッカーでは見つかることを恐れ、静かにしか動くことができない。つまり、出られない。

「テメー馬鹿力出せんだろ」
「まだ傷付いてないから無理」
「役立たずかよ」
「うるさい。今の状況では爆豪だってそうじゃん」
「うるせぇ」

小言で言い合いながら、解決策を探る。しかし体勢が体勢だけに、思春期の女子としては頭が回らなくなるのも当然だと思う。だって、私の脚の間には爆豪の膝が差し込まれているし、胸だって押し付けているのかというくらいピッタリくっついている。時々身じろぎをすると擦れてしまい、何だか変な気分にさせた。それに加え時折耳にかかる爆豪の息は熱くて、背中がゾワゾワする。その度にぴくりと体が動いてしまうのが恥ずかしくて仕方なかった。何とか息が漏れないようと口を噤むも、くぐもった声がどうしても狭い空間に響いてしまう。

「んんっ……」
「テメェ…気色悪い声出してんじゃねーよ」
「っ、なら早く脚退けてよ…」
「できねぇっつってんだろ」
「あ、手、手は?!籠手外したらその分スペース出来るじゃん!」

私の切羽詰まった提案に爆豪は無言で応える。片方だけ籠手がお互いの脚の付近で引っ掛かった感覚があった。なんにせよ、これで体の周りに少しだけスペースができた。爆豪は降ろしていた手を上へと持ってくる。

ふにゅり

「っ、んっ」

お察しのとおりだが、爆豪の手はあろうことか私の胸の、それも芯の部分を押すようにぶつかった。変な気分になっている私はその接触に反応しない訳もなく……あぁ、死にたい
触感と声に反応したのか爆豪の動きは止まる。私は思考が止まってしまった。そして罰の悪そうに爆豪は悪態をつく。

「痴女かよテメー」
「爆豪がっ!変なとこ触るから!」
「触る大きさもねぇだろ」
「最低」

それから何度もどうにかしようと彼は動くが、その度に私の体は可哀想なくらい反応してしまう。涙すら溢れなかった。ただただ、早く終われと願うだけだった。しかし事件は再び起こる。数回の攻防の末、今度は私が動いてみようということになり、手始めに足を動かした時だった。それまで気が付かなかったが、爆豪も、熱を帯びていた。あまりの驚きに反射的にぐりっと膝で刺激してしまう。それが爆豪の逆鱗に触れた。

「やっぱ痴女じゃねーか!死ねクソ女殺したるわ」
「ちっ、違う!ってか散々人のこと痴女って言いながら自分だってそうなってんじゃん!」
「うるせぇカス!!」
「あっ、な、なにすんのばか!」
「はっ、テメーも濡れてんじゃねーか」

お返しとばかりに膝を足の付け根に押し当ててくる爆豪は本当に最低で。ぐりぐりと意図的にしてくる奴は、見えないけれどきっと最悪な目をしている。しかしヤツの言うとおり、小さな水音をさせている私も充分最低なのかもしれない。

「っや、ぁ、も…やだ……」
「やっとしおらしい声出したじゃねーか」
「っばか!しね!」

ぎゃあぎゃあと喚いているうちに授業終了のチャイムが鳴る。何もできないまま、缶蹴りは終わってしまったようだ。
私達がここを出れたのは暫く後で。頬を赤くしている私達に授業中に何してんだと相澤先生は容赦なく減点した。理不尽!


           


ALICE+