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「あれ?」

病院に向かっている森の途中、突如聞こえてきた少女の声にコラソンは思わず立ち止まった。
コラソンの目の先には漆黒の髪で右目を隠し、左の横髪を伸ばした少女がいた。
少女はジッとその黒い瞳でこちらを見、無言で手元にあったアイスをシャリッと音を立てて食べた。

「お、お前シャルか?」
「あ、その帽子ローだ」

「おぉー」と感嘆の声を上げながら少女はこちらに近づいてくる。

「よく生きていたな」
「…まぁな」
「…国のことは知っている、本当に生きてくれてよかった…ずっと探していた」

地面にローを下ろせば少女…シャルは嬉しそうにローに抱き付く。
ローも必死に涙を我慢しているが、じわじわと目元が濡れていく。そして震える手で少女の服を掴み大声で泣きだす。その間少女はポンポンとリズムよくローの背中を叩く。その姿は本当にローと同い年なのかと疑うようなものだった。
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父の船でたまたま立ち寄った島。
ここには大きな病院があると聞く。
私は二年程前に会った少年を探すため、こうして父の仕事の合間に病院を訪ねるようにしている。
"珀鉛病の患者はいない""フレバンス王国から来ていない"…ローの特徴を伝えてもこのことに合う人物はいなかった。
医者になる、それがローの夢だったから…そう思いながらこの島の病院に行く時、ワーワーと叫んでいる声を聞きつける。
足音を消すことも当たり前となり、念が使えない、身長、年齢以外の体質は殆どあの世界の私に近いものとなった。

そして言いあっている二人のうち一人を見た瞬間思わず声が出てしまった。

「そうか…珀鉛病を治す旅をね」

ローから今までの二年間を聞き、かのドフラミンゴの弟であるコラソンを見る。
兄に似た羽毛でできたコート、長身、金髪…確かに親族ではあるようだ。

「…君が、M・D…モンキー・D・シャルか?」
「…いかにも」
「そうか君が…」
「…もしかして祖父を?」

そう言った瞬間コラソンの肩が面白いぐらいに跳ね上がった。

「…まぁ祖父の名前なら知らない人がいない方がおかしいですからね。
所で二人はこの島に何用で?」

そう問いかけると、コラソンさんはハッとし、ガシッとローを掴むと「病院に行くんだ」という。
成程、珀鉛病の薬ができたと考えているのか…だが…。

「ホワイトモンスター!!」

病院の出入り口で待ってみれば案の定の言葉。
"珀鉛病"それは毒で遺伝的な問題で人に移ることはない。
だが人々は感染病だと誤解したままである。そんなところに白い町出身のローが行ったらこうなることは予想できるだろうに…。それでもローを生かしたいというのか?コラソンさん。

私は出てきたコラソンさんとローについていく。

「最悪の病院だ!!悪かった…昔のこと思い出させちまったか…?」
「…だからいっただろ、病院なんか行きたくねぇ!!」
「……ねぇ」

二人が言いあっている中私の中でとある決心をする。

「私も一緒についていっていい?」
「「!!?」」

二人はどういうことだといわんばかりにこちらを見る。

「私もローを助けたいの…それが友達でしょ?」

そう言うとローは泣き顔を更に酷くし抱き付いてくる。

「……」
「大丈夫、決して足手まといなんかにならない」

唖然としてこちらを見てくるコラソンさんにそう言ってやれば、「いや、そこはあまり…」と言葉を発する。

「…珀鉛病のことを知っているのか?」
「…勿論、これは遺伝的な症状であって感染力はないことぐらい知っている」
「そこでそんな情報を…」

疑いの目で見てくるコラソンさんにニコッと子供らしく笑い「内緒」といえばそれ以上何も言わなくなった。

そして森を抜けると海岸にある一隻の船…よくこんな船で航海できたな。
ちょっと考えて私は父の船に一隻だけ救命船以外の少しはまともな船があったことを思いだす。
父にも旅に出ることを伝えないといけないのだから、ちょうどいい。

「ちょっと父に旅に出ることを伝えてきます」

コラソンさんにそう言えば「あぁ」と短く返事が返ってくる。
急いで船に行くためにダッシュで森を抜ける。